47.炎

炎1

 俺の体力が奪われていくのを、ヤツらは面白がっている。

 そんなことはよくわかっていた。

 ここより先の未来からやってきて、なんら問題が解決していないこともちゃんと理解してる。だけど、だからといって、目の前で悩み、苦しむ人が居るのを見捨てるなんてできない。

 五人衆の連中は隙なく攻撃をしかけてきた。各々連携し、互いの利点をわかり合って。

 最初から勝ち目のない戦いを挑んでしまった。それでも後悔はしていない。何もせず、傍観しているくらいなら、ボロボロになって抵抗した方が幾分かマシだ。

 足を生やした巨木が枝を伸ばし、幹をくねらせて襲いかかってくるのをかわしながら、俺はそうやって、行為の正当性を自分自身に言い聞かせた。

 タイラーの氷攻撃で傷付いた箇所がヒリヒリ痛む。血が出ていく感覚。防具のことを考えてはみたものの、上手くイメージが浮かばず、グローブ止まり。触れたことのないものを頭で映像化するのは苦手だ。実際見て覚えるならともかく、センスのない俺の頭で防具をデザインし、具現化するのはハードルが高すぎる。

 持っていた槍を振り回し必死に抵抗するが、木の化け物にはさっぱり通用しない。枝先を掠め、葉を落としたところで、本体には傷が付かないのだ。しかもそれが何体も。これじゃ、五人衆をやっつけるどころか、この場でくたばってしまいそうだ。

 武器を、変えるしかない。

 あの太い幹をたたっ切るには何がいい。木ならば……斧か。デカい斧。俺に、振り回せるか。――そんなの、心配してる場合じゃない。振り回すしか、ないんだ。

 槍を放り投げ、斧をイメージする。

 ついでにゴブリンみたいな防具をイメージすれば、具現化できるか? 


 追いつけ、俺の想像力。


 手には大きな斧。腕に装甲、頭には鉄兜、それから身体には鉄の鎧――、足には太めのブーツを履いて。格好悪いが、ゲーム画面で見慣れたそれなら、少しはイメージできる。重くて、動きづらいはずだ。重心が低くなって、それで斧を遠心力使って振り回すはず。

 と、木の化け物が、俺の胴体めがけ、水平に枝を振ってきた。太い枝が迫る。

 来い、来い、大きな、斧!

 両手の中に、ズッシリと、今まで感じたことのない重みを感じる。よし、来た。斧だ。コイツを迫りくる枝に押し……当てる。

 バギッと激しい音を立て、枝が折れた。これなら。

 身体もズシンと重くなる。防具が、来た。デザインはどうしようもないくらいダサいが、とりあえずこれで。

 削られていく体力、重くなった足を、前へ、前へ、運んでいく。


「うりゃぁぁぁぁぁ!!!!」


 斧なら、ダメージが入る。

 幹に斜めに斬りかかると、そこからバギッとひび割れて、化け物は次々にバランスを崩していく。ここに、魔法を掛け合わせれば。

 木には火だ。炎の魔法を斧に宿す。持ち手から刃先へ、魔法陣をスライドさせ、斧に炎を纏わせた。

 振り回した斧が幹に当たり、炎が木に引火する。一体、一体、なぎ倒す。

 倒されて尚、木の化け物たちは起き上がり突っ込んできた。火の付いた枝を何度も叩き付けられたが、ようやく装備した防具に守られ、致命傷は避けた。

 炎が激しくなると、ヤツらは動きを弱める。折り重なるように草地に転げ、終いにはただの丸太に姿を変えていく。

 そうやって、全ての化け物に火が付き、攻撃の手が弱まったところで、俺はふと、すっかり自分が五人衆の罠にはまったことに気が付いた。ヤツらは俺の相手を木の化け物たちにまかせ、蔓の籠の前に集まって、何かを始めていたのだ。


 う……、迂闊だった……!


 目の前の敵を倒すことばかりに夢中で、術者がそこに居なくなったことに全く気が付かなかった。

 俺は重い斧を放り投げ、美幸たちが捕らえられている籠へと急いだ。

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