森へ2
話しにくい事情でもあるのか。そう思っていると、
「私が全てを語ったら、彼女は怒るだろうな」と言う。
「私の知っている美桜は、まだ幼くか弱かった。母にピッタリくっついて、可愛い人形のような子供だった。あれから十年は経つ――。私の話などおとぎ話にしか聞こえないかもしれない。彼女自身、全てを覚えているのか。あの時何があったかなんて、幼い子供に理解できたかどうか。とにかく、悲しいことが起こったのだ。あれ以来、“表”と“裏”、二つに分かれていた世界の距離がグッと縮まり、たくさんの“ゲート”が生まれた。引きずられるようにして多くの“二次干渉者”が発生し、レグルノーラは混沌とした。森が急激に消え始めたのもその頃からだ。世界の秩序が乱れだし、“悪魔”と呼ばれる存在がこの世界に頻繁に“干渉”するようになる。私が
長ったらしい口上の挙げ句に、テラはピシャリと言い放った。
「なんだよ。結局、何も言えないんじゃないか」
口をとがらせ見上げると、テラはツンとそっぽを向いた。
面倒な、事情があるらしい。わかったのはそれだけで、何の進展もない。
美桜に関しては、わからないことだらけだ。
彼女自身が語ってくれるのなら、それに越したことはないんだけど。俺とは、何故かしら正面向いて話してくれない。干渉者仲間だと向こうから近づいて置いて、それでいて、秘密を突き通すなんて、理解に苦しむ。
この世界の人間たちも――ジークも、ディアナも、そしてテラも、何故頑なに、一番大切なことを話そうとしないのだろう。
この世界は何故、“表”の世界に対して“裏”なのか。
“干渉者”とはつまり、どんな存在なのか。
“干渉者”は、何故能力を持ち得るのか。
“二つの世界”の間にあるという、“砂漠”の意味は。
何故“森”が消え、“砂漠”が広がっているのか。
答えは与えられるものではない、自分の力で答えを導き出すものだとでも言いたげな態度には、ため息しか出ない。実際、彼ら自身にも答えは導き出せていないのかもしれないが――。
「じゃあさ、質問を変える。どうして“こっち”の連中は、やたらと美桜のことを知ってるの。いくら干渉者だからって……おかしいだろ。能力を持った人間は美桜だけじゃない。なのに、どうしてみんな、美桜のことを特別視してるのか。ずっと気になってた。気になってたけど、誰にどう聞けばいいのかわからなくて。あの芝山でさえ――美桜のことを干渉者だと知っていた。ってことは、芝山以外の干渉者たちも、美桜のことを知っているのか。二次干渉者は、自分に影響を与えている一次干渉者について認知できるようなシステムでもあるのか。その辺、テラなら知ってるんだろ」
ちゃんと聞こえているはずなのに、テラは目を合わせようとしなかった。流れる景色を眺めてはあくびをしたり、短い銀髪を掻きむしったりして、知らぬ存ぜぬを突き通すつもりらしい。
「しらばっくれてないで話せよ」
肘でテラを小突いていると、背後からコツコツと堅めの靴音が聞こえてくる。聞き覚えのあるそれに、俺はおもむろに振り向いて、軽く手を上げた。
「よ、“芝山”。それとも、干渉者らしく“哲弥”って、下の名前で呼んだ方が良かったか」
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