二次干渉者3
「美桜は――」
互いにとって、どんな存在なのか。美桜とも何度か問いを交わた。でも、結局答えなど出ていない。答えを出してはいけないのだと、そう結論づけていた。
だから今更、芝山に言われたところで、どう答えたらいいのか。単純には言い表せない。
「美桜は俺のことを――、多分……そうだな。干渉者仲間だとは認識しているようだったな……」
最低限、それだけは言える。
「そんなことは聞いてない。来澄、君はふざけてるのか」
芝山はムッと唇をへの字に曲げた。
テラまでも、あきれ顔で額に手をやり、目を固く瞑っている。
「ふざけてるわけじゃなくて。本当に。彼女の気持ちなんて全然わからない。彼女は無理やり俺を“この世界”に連れ込んだ。飛んでくれば大抵臨戦態勢。成り行きで魔物を退治し、成り行きで能力を解放された。俺の意思なんてどこにもない。今だってそうだ。急に砂漠に落とされて、何とかして帰ってこいとディアナに高笑いされて。女性の考えていることはさっぱりわからない。特に美桜は、どうして俺なんかに声をかけたんだか……、未だハッキリしない。誘うように迫ってみたり、かと思えば突き放してみたり。俺の方が彼女に聞いたくらいだ。『俺は美桜の何なんだ』って」
求めていた答えではないことは知っている。
だがしかし、これ以上の答えはない。
俺と美桜は、そういう関係だ。いつまでも平行線上にいて、くっつきも離れもしない。互いの感情は決して交わらないんだ。
「まぁ、彼女らしいと言えば、らしい……かな」
芝山は唸りながら、一方でなんだそれと首を傾げた。
「でも……、安心した。彼女の“あの言葉”は悪い冗談だったんだと確信できた」
「“男女の仲”……ってヤツか」
「そう、それ。完全にボクは君のことを、美桜の処女を奪った悪い男だと思ってしまうところだった。ありえないけどね。でも、確かめなくちゃと、あのときは無我夢中だった」
少し前に出回っていた下品なコラージュ写真。そういえば、あれからどうなったのか。今更のように思い出す。
「奪えるわけないだろ、そんなもの……。俺には美桜を押し倒すことなんてできない。そりゃ、そういう仲になれるならと思ったりもしたけれど。無理だな……一生、無理だ」
そのとき俺はよほどおかしな顔をしてしまったんだろう。
芝山は急に噴き出し、こみ上げる笑いをじっと堪えていた。
「おい、何がおかしいんだよ」
ムッとして芝山に尋ねると、テラまでが、
「そうだな。一生無理だろうな。君のような体たらくでは、美桜に太刀打ちできない。あり得ない噂を流されたものだな。美桜に同情する」
壁際のチェストに寄りかかり、傑作だと声を上げて笑い始める始末。
「なんだよ……。人が真面目に答えてるのに」
「真面目は真面目なんだろうけど。なんだ……、来澄も結局、ボクらと殆ど変わらないってことか……。いや、振り回されてる分、それ以下か」
腕を組んで肩を震わせる芝山。
からかわれるのは慣れてるが、ここで、こんな話題で盛り上がられると癪に障る。
「男女の仲を否定した割に、芳野美桜と結構仲良くしてたじゃないか。あれは、どう説明するんだ」
気が付けば、芝山の口元は、すっかり緩んでいた。
「あれは……、別に仲良くしてたわけじゃなくて、美桜とレグルノーラに出没する魔物を倒すため、策を練ってたんだ。彼女は“この世界”を救いたいと言った。俺はその手助けを――、させられてたんだよ」
最初は、受動的に。
今はもう、ディアナとの約束で逃げることすらままならないが。
「“異世界からの干渉者が、世界を救うという伝説”――、それを実現させるために……? そんなこと、来澄は本気でできると思ってるのか? ボクも何度か乗組員に聞かれたよ。『能力が使えるってことは、干渉者なんじゃないか』とか、『もし異世界から来たのであれば、この世界を救ってくれないか』とか。残念ながら、ボクはそんな力は持ち得ない。それより、この砂漠の謎を解く方が面白いと思うけどね」
「なんだよ、砂漠の謎って」
俺の、この言葉を待っていたのだろう。芝山は椅子にふんぞり返って、まず聞けやとにんまり笑った。
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