35.二次干渉者

二次干渉者1

 およそ、砂漠の帆船には不釣り合いな光景だ。

 大航海時代風の船長室に、制服の男子が二人。テラを挟み、互いに間合いを計るようにして対峙している。

 芝山は丸っこい頭をこちらに向け、ギリリと奥歯を噛んだ。


「芳野美桜は……、彼女は、この世界を“ボクら”に教えてくれた。二つの世界を繋ぐ架け橋だ。彼女といううつわがなければ、“ボクら”はここに来ることができなかった。彼女の周囲で発生するひずみこそが“ゲート”であり、その恩恵を受けてこその“干渉”だ。あの教室で美桜と空気を共有することで、“ボクら”は新しい世界への扉を開けた。会話を交わすことも、目を合わすこともないけれど、それでも彼女は“ボクら”に力を与えた。君は……、そんな“ボクら”とは全然違う。会話もする、接触もする、二人で一緒に行動する。一体……、一体君は、芳野美桜のなんだっていうんだ」


 優等生らしい解説だ。

 つまり美桜は、知らず知らずのうちに、あの教室にゲートを発生させていたと。彼女の部屋にゲートがあったのも、ジークの家にゲートがあったのも、同じ理由か。たしか、何度も利用すればゲートになり得ると、そんな話を聞いたことがあった。


「彼女が発生させたゲートに、巻き込まれる形でレグルノーラへ足を踏み入れた……。そういう、こと?」


 そんなこと、あるのだろうか。

 恐る恐る尋ねると芝山は、「ああ」と小さく呟いた。


「彼女の力は強大だ。だからきっと、影響されたんだ。知らないうちに、ボクは能力を身につけていた。いや、もしかしたら、潜在的に持っていたのかもしれない。何度も行き来するウチに、砂漠の存在を知った。そして偶然帆船に出会ったことで、ボクの存在意義が決定づけられた。ボクはこの世界で、この砂漠で生きるために存在しているのだと」


 両手に力を込め、熱く語る芝山。教室では絶対に見ることの出来ない、彼の一面。

 美桜とのことがあってから、芝山からは睨まれてばかり。あまりいい感情を持ってはいなかった。そもそも、興味がなかった。彼がどんな人間だろうが、どうせ短い高校生活の中で偶然同じクラスになっただけで、今後同じ時間を共有することなんてないと高をくくっていた。

 それが……、砂漠の真ん中で出会うことになろうとは。


「“二次干渉者”、だな」


 と、テラ。


「二次……?」


「凌や美桜のように、自らの能力で他世界に干渉することの出来る者を“一次干渉者”と呼ぶのに対し、彼のように、一次干渉者の影響によって新たに干渉能力を持った者をそう呼ぶことがある。あくまで分類上だ。二次干渉者は、一次干渉者の影響下でしか能力を発揮できないという点で、一次干渉者と大きく違っている。美桜の力の大きさを考えれば、二次干渉者を複数生み出していても不思議ではない。彼が時折挟む複数形から察するに、彼以外にも数人、同じ方法で干渉能力を身につけた人物が周囲にいるのではないのか。そして、彼はそれが誰なのかを知っている」


 テラの言葉に驚き、俺は本当なのかと芝山の顔を確かめる。

 芝山は苦笑し、フッと短く息を吐いた。


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