砂漠の試練3

 ヒョウと生ぬるい風が肌を掠り、バサバサと何かが羽ばたく音が――。

 グイッと、何かが俺の足を掴んだ。落下が止まり、思い切り宙に身体が舞い上がる。


「な、なんだ?!」


 足首を、黄色の鉤爪が握っていた。濃い砂色をした、それは。


「りゅ、竜!」


 真っ逆さまになったまま空を見上げると、俺の足首を掴んで羽を広げる、巨大な爬虫類の姿が目に入った。後頭部の長い、鋭いくちばしを持った賢そうな翼竜は、キュルルッと声を上げて、


『最悪の対面だな』


 と苦笑いした。


「まさか、さっきまで聞こえていた声って、おま……」


『そういう呼ばれ方は気にくわないな。せっかく助けてやったというのに』


 バサバサッと竜は羽ばたいて高度を上げた。

 眼下には、さっき戦ったサンドワームの肉塊とディアナに渡された布袋が。


「に、荷物! 水!」


『そんなもの、“イメージ”を高めて呼び寄せれば良い。君は自分の力の使い方を、まだよくわかっていないようだ』


「え? 呼び寄せ……? は?」


 要するに諦めろと、そう竜は言ったらしかった。

 今すぐにでも水をがぶ飲みしたい気分だってのに、逆さ吊りにされ、餌みたいに運ばれ、パニックも良いところだ。

 大体、竜なんていつから。

 一人っきりで砂漠の真ん中に置いていかれたはずじゃ……。


『まさか、私のことを、彼女は何も言わなかったわけではあるまい?』


「彼……女って、ディアナ? 砂漠を抜ける話?」


 水と食料を与えられ、サンドワームを倒せだの砂漠をどうにかして抜けるだの言われ……。竜のことなんか、これっぽっちも。


『布袋の底の卵を、お前は割った。私はそこから現れた。“新しいあるじは新米の干渉者だ”と彼女は言っていたが、これでは、あんまりではないか……』


「――あ! アレか!」


 食料の入った袋の底に、確かに何か大きなモノが引っかかっていた。確認はしなかったが、小石に引っかかってつんのめったときに、俺はどうやら荷物をばらまくのと一緒に卵を割ってしまったらしい。

 よく見ると、散らばった荷物の一部に白っぽい卵の殻が。

 あそこから竜が……、そして今、俺の足を。


『君の身体を運んだまま遠くまで飛ぶのは難しい。一旦着陸して、ゆっくり話をしようじゃないか。新しい、私の“あるじ”よ』


 バサリバサリと、竜はゆっくりと羽を動かし、風を掴む。

 地平線の向こうに、森とビルの先っぽが見えた。

 あの方角へ――と思うのも裏腹、竜は逆方向、サンドワームと戦った場所から少しだけ離れた岩山へと向かっていった。

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