崩れる日常2
マンション前での変な合成画像が出回っていると知らされて以降、俺と美桜の周囲では少しずつ、おかしなことが増えていた。
いわゆる、いじめの前兆のような気持ち悪さがあった。ヒソヒソと悪口を言われるのは慣れているとしても、物がなくなったり汚されたりすることが出てくると、流石に気分が悪い。筆記具やノートの類いはどこかに置き忘れたのかと思っていたが、机の落書きにはドン引きした。幸い鉛筆で書かれていたから良かったものの、高校に入ってもまさか小学生レベルの嫌がらせをしてくる人間がいるのかと、ある意味感心してしまったくらいだ。が、こういった悪意が“レグルノーラ”での“ダークアイ”出現に繋がっているんだろうと思うと、ただ黙って耐えていればいい状況じゃないようにも思えた。
美桜曰く、標的は彼女。
だとすれば、俺の身に起きている出来事はとても些細で、彼女の方ではもっと重大なことが起きているのかもしれない。しかし、いつ見ても美桜は涼しげな顔で何ごともなかったかのように日々を過ごしている。
日常茶飯事だと言っていたのも、あながち嘘ではなさそうだ。悪い言い方をすれば、“やられ慣れている”。
彼女の表情から現状を探るのは難しい。向こうも向こうで、俺に気を遣っているのか、それとも頼りたくないのか、何が起きているのか一切教えてこようともしない。
あの日昼飯を一緒に食った後、無理やり聞き出した彼女のSNSアカウントも電話番号も、非常事態以外に使うのは気が引けて、≪今日はどうだった≫≪何か、新しい情報は≫簡単な言葉さえ打つのに躊躇する。
結局、お互いの気持ちは一方通行だ。
俺が彼女のことを一人の少女として心配しているのを、向こうが全く知らないのと同じように、彼女が俺のことをどう思っていて、どのくらい信用しているのか俺にはさっぱり理解できない。
だのに、美桜が交際宣言をしてしまったことで、話はどんどん膨らんでいった。
嫌がらせには段階というモノがあって、まずは陰口や悪口から始まり、それをネタに見えないところで“からかい”が始まる。それから、どんどんその“からかい”が表面化し、いずれ本人の目の前で、或いは本人に直接的な“からかい”“嫌がらせ”が行われていく。
顔つきの悪さで常に”はぶられ状態”にある俺は、これらの行為を何度も目の当たりにした。どこまで“嫌がらせ”が発展するのか。その先には何があるのか。考えたこともあったが、幸い、直接的肉体的な攻撃に発展することがなかったのは、不幸中の幸いだった。
ところが今回は何かが違う。
学校一とも噂される美少女“芳野美桜”に手を出したという噂は、想像以上に手の付けられない状態にまでヒレを付け、いつの間にか学校内の誰もが知ることになっていたのだ。
クラスの担任や教科担任さえ、俺の顔と美桜の顔を交互にチラチラ見る始末。
「不節操はいかんよ」
年配の地理教諭にコソッと言われたときは、自分の耳を疑った。
不節操どころか何もしていない。手を握ったことがあるくらいで――それも、“レグルノーラ”へ飛ぶための儀式としてやっていただけで、お互い恋愛感情で成り立っているような関係じゃない。
本当に、コレで良かったのか。
面倒だからと交際宣言なんかしてしまって良かったのか。
美桜の対応には未だ疑問が残る。
なぜ、彼女は俺なんかを選んだ。お互い苦しくなるってわかっていて、なんで公衆の面前であんなことをしたんだ。
――『ミオはリョウのことを、もしかしたらそれ相応か、もしくはそれ以上のモノだと思ってるかもしれないよ』
サーシャの言葉がたった一つの心の支え。
信じていいなら、もしかしたら。
でも、当の美桜はそんな素振りを見せようとはしない。
彼女の本心を知りたい。
けど、今はそれどころじゃない。早く“悪魔”の正体を突き止め、この状況から脱しなければ。
そんなふうに結論の出ない答えを探して、俺の頭は堂々巡りを続けていた。
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