“干渉者”と“悪魔”4
「凌、“干渉能力”は、単純に“経験値”とイコールじゃないってのは、美桜から聞いた?」
突然ジークに話を振られ、俺はびくっと身体を強張らせた。
「い、いや」
「いわゆる“経験値”――って言っても、ゲームじゃないんだから、数値があるわけじゃないけど、“経験によって得られる能力”は、当然、経験を積めば積むほど高くなる。でも、それは“干渉能力”が高くなるのとはまた違う。“もうひとつの世界に干渉する力”を強くするのは、ひとえに“精神力”だと思ってくれていい。“世界を変えよう、干渉してやろう”という気持ち如何で、“干渉能力”に差が出てくる。さっき美桜が言ったように、“悪意を持って干渉”すれば、その力は“悪魔”と呼ばれてしまうことになる」
「その“悪魔”の正体さえわかれば、“干渉”をやめさせさえすれば、“レグルノーラ”には平和が訪れるはず、なのよ。理屈的にはね」
何となく、二人の言っていることが見えてきた。
要するに、“悪魔的な力”を持った“干渉者”ってヤツが存在するわけだ。“あっちの世界”のどこかに。
美桜は一緒に“悪魔”を探す相手として、なぜだか知らないが俺を選んだ。
ジークは元々、“こっちの世界”でいろいろと“悪魔”について調べていた。“あっち”での様子を監視しながら、“悪魔”の行動パターンを分析していた。
なるほど。
だんだん自分の立ち位置が見えてきた。
「で、どうなの。分析の結果、何かわかったことはあるの?」
美桜の問いに、ジークは困ったなと苦笑いし、頭をボリボリと何度か掻いてから、「これ見て」と、この部屋に通されたときに画面に表示されていたグラフと表を再表示した。
「残念ながら、行動パターンには規則性はない。まんべんなく、昼夜問わず現れてる。それから、“干渉パターン”、つまり、現れた“魔物の種類と攻撃のパターン”にも特に規則性はない」
ジークの言う通り、地図にはバラバラとまんべんなく、出現カ所を示す点が記されていた。
魔物についてのデータが記されている表やグラフも、数値がほどよく疎らに散っているのがわかる。
「これだけ多種多様な攻撃ができるなんて、かなりの力量だと思わないか? 少なくとも、その“干渉能力”の高さは、神レベル。“干渉者”がいくら“悪魔を打ち砕く者”という意味を兼ねていたとしても、僕たちみたいに、何とか戦えてる程度の力じゃ、どれだけ束になっても敵わないだろうね。――あまり考えたくはないんだけど、ひとつ仮定がある。聞きたい?」
ジークは椅子ごと俺と美桜の方に向き直って、一層真剣なまなざしを向けてきた。
「何よ。もったいぶらないで」
美桜は、何を今更という風に眉をぴくっと動かして、ジークを睨んでいる。
「こんなこと言ってしまうのはどうかと思ったんだけど。もし違ったら、そっちの方がありがたいな。“表の世界”にはホラ、“嘘からでたなんとか”ってことわざがあるらしいし、言葉にしてはいけない気がして」
「いいから早く」
ジークは、本当に言いたくなさそうに、口を歪めた。
そんなに言いたくなければ、思わせぶりなことなど口にしなければよかったのにと、俺はそのとき、まだ他人事のように感じていた。
「多分、“悪魔”の力を持った“干渉者”は一人じゃない。複数人で、互いにその存在を知らずに、個々に干渉してきている」
聞こえてきたセリフは、あまりに信じがたかった。
俺と美桜は互いに顔を合わせ、一体どういうことだろうかと首を傾げた。
「“悪魔”は、一人じゃ……ない?」
恐る恐る尋ねた美桜の声は、微かに震えている。
「多分、の話だよ。一人一人の力は小さいかもしれないけど、混ざり合って強大な“悪魔”となり、“この世界”を混沌に陥れているのではないかと。現れる時間や干渉のパターンに規則性がない理由を、合理的に考えただけだけどね」
そこまで言って、ジークはふうっと大きく息を吐いた。
そして、スッと人差し指を前に出し、俺たちの視線を集めた後で意を決したように、分析の核心を口にしたのだった。
「つまるところ、“悪魔”は、何人いるか、わからないってことさ」
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