“干渉者”と“悪魔”2
ジークは見たところ、二十代半ばから後半。完全なる大人だ。
ちょっと緩い感じと言えばいいのだろうか。言葉の端々に“細かいことは気にするな”的な意思を感じる。けれど、本当はかなりしっかりした人間なんだろう。冗談を言いながらも目は笑ってなかったから。
ちょっと待っててねと前置きして、ジークは作業机にあったキーボードをカチャカチャ打ち始めた。全てのモニターがスッと真っ暗になり、「これで、どうかな」というジークの声の後に、一つの画面に見覚えのある景色が映し出された。
「うちの、高校だ」
思わず声が出た。
「私立
美桜はモニターを無表情に見つめている。
レグルノーラに来てまで学校の話題が出ると思わなかった俺は、手にじっとりと汗がにじむのを感じていた。
「二つの世界の距離が一番近いところってことかな。世界は球形でも直方体でもない歪んだ形をしていて、あるところでは近づき、あるところではものすごく離れている。世界の形が実際どうなっているかなんて視覚的に捉えることは不可能だけど、点在する“ゲート”つまり、“表と裏を繋ぐ場所”が不規則的に並んでいることから見ても、そう考えるしかないだろうね」
できる限りわかりやすいよう、ジークは指で形を描いたり、手で位置を示したりしながら、ゆっくりと説明してくれる。
「どうして、うちの高校が」
俺は動揺して、画面に釘付けになってしまっていた。
どこからどう見ても、ついさっきまで自分がいた場所だった。
画像は更に、様々な角度で数ヶ所から学園全体を捉えていた。映し出された校舎の時計は、ついさっき“こちら”へやってきたのと同じ時間を指している。校舎二階の中央にある教室の窓を凝視すると、イチョウの青々と茂った木に半分以上隠れてはいたが、男女の生徒が見つめ合っているのが見えた。
俺と、美桜だ。
つまり、この画像はたった今映し出されているもの。校門を潜って帰っていく生徒たちが動いているのを見るに、今まさにどこかで盗撮しているということなのだろう。
大量のサーバーで埋め尽くされたこの部屋で、この男は一体何をしようとしているのか。
ジークはまたカチャカチャとキーボードを叩いて、真っ暗だった画面の一つ一つに映像を映し始めた。
「“ゲート”は確認できただけでも、十以上はある。君たちが通ってる高校の、あの教室はそのひとつ。校舎の中には他にも弱い“ゲート”はあるようだけど、あそこが一番“裏”に近い。だから美桜は、凌、君を教室で誘った」
教室、体育館の裏、それから中庭。なるほど、あの教室以外からでも、“こっち”に来ることができるかもと、そういうことか。
他にも、商店街の小路や駅裏のコインロッカー、それから学校の近所の小さな公園の映像もある。
「ジークはつまり、ここで“ゲート”の様子を監視してるってこと?」
他に聞きようがなく、思った通りのことを口にしてしまってから、まずかったかなとジークの顔をのぞき見るが、彼は彼でなんていうことなしにフフンと笑った。
「常時監視してるってわけじゃないよ。しょっちゅうカメラを飛ばしてたんじゃ、“あっちの世界”の人間にもバレちゃうしね」
スッと、ジークはそのデカい手を、俺たち二人の真ん前に差し出した。
手のひらの真ん中に、小さな虫がいる。コガネムシのようなオレンジがかった茶色い甲虫だ。その、頭に当たるところが不自然に丸く、照明を反射してチラッと光った。
「この部分がレンズ。胴体部分には“こっち”にデータを飛ばすための機械が入ってる。遠隔操作で自在に飛ばして、好きな角度から撮影できるのがポイント。よくできてるでしょ」
これには感嘆のため息が出た。
やっぱり、“こっちの世界”の方が、科学は進んでる。
「最近やたらと“魔物”が出るっていうんで、部隊の連中にも頼まれたんだよ。“あっちの世界”で一体何が起きているのかって。こんなこと、僕にしかできないからね」
「部隊?」
「ほら、前にも少しだけ言ったじゃない。レグルノーラを守る市民部隊の話」
すかさず美桜が口を挟んだ。
そういえば、ちょっと前、怪物との戦闘後も、同じような話をしたのを思い出した。
「レグルノーラは今、“悪魔”に怯えてるんだよ」
言ってジークは、また別の映像を見せ始めた。
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