【2】もう一人の干渉者

6.表と裏を繋ぐ場所

表と裏を繋ぐ場所1

「ゲーセン寄るんだけど、来澄も来る?」


 クラスでもそれなりに仲のいい峰岸健太が、珍しく俺を誘った。

 ホームルームが終わってこれから帰ろうという時間ではあったが、俺は前の席に座った美桜の背中をチラッと見て、


「先約があるからさ、また今度」


 と言葉を濁す。


「駅前のゲーセンに新しい体感ゲーム入荷したんだって。みんなで行くとこだったんだけどさ。しゃぁない。じゃ、また今度な」


「悪ぃ。そんときは行くから」


 先約とは言ったものの、実際は約束をしているわけではない。暗黙の了解というヤツだ。

 部活か塾で忙しい生徒が大半だが、俺のように帰宅部で塾にすら通っていない暇人は授業が終われば直帰する。帰り道にグダグダと寄り道して帰るのが帰宅部の活動みたいなものだった。

 帰る方向が一緒だということもあり、峰岸はたまに俺を誘う。悪い気はしない。小遣いさえ続けばゲーセンでも本屋でも買い物でも付き合ってやりたいところだが、そんなに親しくもないのにいつも一緒にいるのも疲れてしまうというもの。適度に相手が気を遣わない程度に誘いに乗る。それが“ぼっち”の原因だと言われればそうかもしれないが、だからといって、どうやって仲のいい友達とやらを作ればいいのか、俺にはだんだん分からなくなってきていた。


「誘い、断ってよかったの」


 人目につかない時間帯になりフラッと教室に戻ってきた美桜は、窓辺に両肘をついて外を眺めていた俺にそう言った。


「いいんだよ別に。そんなに仲がいいわけじゃないし」


 つっけんどんに言い放つと、美桜は隣まで来て一緒に窓に肘をかけた。


「だから“孤独”、なわけね。納得」


 心に刺さる。

 そういう美桜こそ綺麗な割に友達がいないじゃないか。そりゃ、中身がこうなんだから仕方ないか。ハハッ……と鼻で笑い飛ばしたくもなったが、言葉にすらならないどころか表情で訴えることもできない。

 お互い孤独だったからこそ、こうして妙な時間の共有ができているかもしれないのだ。いちいち美桜の言葉に目くじらを立てたところで、俺たちの仲は進展しない。

 それに、“裏の世界”に関しては、美桜の方が何枚も上手うわてだ。あっちの世界には彼女と手を繋がないと行くことができないし、あっちではどこに行くにも美桜の案内が必要だ。


「それより、行くなら行かないと。誰か来たらマズいだろ」


「そうね。じゃ、行く?」


「ああ」


 俺は窓辺に立ったまま、そっと、右手を差し出した。彼女はいつものように左手を絡めてくる。

 開けっ放しの窓からは、青葉の茂る校庭の木々を抜けて、気持ちの良い風が吹き付ける。背の高いイチョウの影にはなっているが、もしかしたら下校中の誰かが校庭から俺たち二人を見つけるかもしれないというスリルはあった。ふと見上げた教室の窓辺に、男女二人見つめ合うようにして手を繋いでいたらどう思うか。俺にだって想像できる。


「邪念は消して」


 また美桜は、俺の心を読んだかのように声を強めた。


「しゅ、集中します」


 わかってる。俺と美桜はそんな仲じゃない。

 あくまで、“干渉者仲間”なのだ。





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