第69話 決着
傭兵の頭が怒鳴った。
「依頼主にはターゲット以外殺すなって言われたがもうかまわねえ! 弓を使え!」
おーお。
ひでえな。
こいつら勝利条件変えやがったぞ。
俺が依頼主だったら頭を抱えているところだ。
「オラァッ! 歩兵は退け!」
歩兵が慌てて逃げ出す。
歩兵が逃げ出すと弓兵が矢の雨を浴びせる。
「盾に潜れ!」
従騎士がかけ声をかけると全員が盾に潜り込む。
盾に矢が当る。
盾を持ってない俺は荷馬車の下に隠れた。
俺は計算をする。
弓兵は10人いるかいないか。
一度に射出する矢が10本とする。
矢を作れるなら鍛冶屋にでもなってるはずだから、矢は買ってるはず。
グレードにもよるが矢は細かい部品が多いので高い。
20本で金貨1枚はする。
金貨一枚は日本円で30万円くらいだ。
作戦全体の予算は30人の傭兵の給与が金貨50枚くらいだろう。
一人15万円から20万円くらいだ。
そこに消耗品や死人が出た場合の葬儀の費用、怪我をした兵の治療費、それに食料や水などの兵站などを考慮に入れると経費は約5000万円。
50人規模の大移動だ。そんなものだろう。
儲けは7割と考えて金額は1億5000万円。
金貨500枚か。
いや今回は人質を取られているのでもっと安いだろう。
300枚くらいかもしれない。
その中から予算の1%~2%と考えて矢はせいぜい100~200本だろう。
一瞬で10本使うから10回撃てば終わりだ。
脅しにもならん。
俺は矢が止むと馬車の下から這い出る。
「クソ! 生きてやがった!」
「化け物かアイツは!」
ふふふん。
今度は俺たちの番だ!
俺は手をあげる。
「ぎゃああああ!」
弓兵の1人が倒れた。
エドワードの狙撃だ。
こちらの矢は最高グレードのものだ。
こちらは予算がたんまりある。
装備が違うのだよ!
俺たちは矢が20本もあれば事足りるのだ。
だがそんなに矢は必要なかった。
マーガレットがいつの間にか弓兵の所に現れたのだ。
「な、いつの間に!」
弓兵が驚く。
マーガレットが剣を抜いた。
俺と同じ流派、ハイランダーの剣だ。
つまり、打撃あり投げあり関節技ありだ。
「おりゃ!」
弓兵がマーガレットに弓を向ける。
マーガレットは弓兵の一人の背後に回り首に剣を突き立て人質にした。
矢に対する盾だ。
うん。えげつない。
「キャロルごーごー」
それはゆるい声だった。
前進を葉で覆ったキャロルが弓を構えながら弓兵へ躍り出る。
相変わらず弓は自分で作ったものだ。
キャロルの動きは素早かった。
パワー型のエドワードとは違い、短い射程で連射することに長けているのだ。
完全に虚を突かれた兵が次々と倒れていく。
……俺たぶんキャロルと戦ってたら負けてた。
マーガレットも隙を突いて兵を倒していく。
あっと言う間に弓兵は全滅した。
うん。あの二人は敵に回すのはやめよう。
高確率で負けるわ。
「もう一度歩兵が来るぞ!」
従騎士が叫ぶ。
負けることはないだろう。
幹部が現場仕事を知っておくってはいいことだ。
さてさて次はどう来るか?
余裕気味な俺の周りに気配がする。
四人か。
騎士を弓で動けなくしてその隙に侵入したのだ。
弓を放ったのはこのためか。
ほうほう。無能ではないようだな。
「投降しろ!」
男の一人が言った。
俺を殺せると思ってるなら問答無用で命を取りに来るはずだ。
つまり連中は俺に勝てる気がしてないのだ。
チャンス到来!
俺は問答無用で男たちに襲いかかる。
俺は男の顔面に剣の柄を打ち付ける。
「がッ!」
男が痛みで目をつぶった瞬間、俺は男のヒザを蹴り潰す。
「ぎゃああああああ!」
男が膝を押さえながら転げ回る。
殺さないが一切手加減はしない。
剣抜いた男が俺に斬りかかる。
俺は左手で剣を払う、剣に引っ張られてがら空きになった男の鎖骨に柄を振り下ろす。
俺たちとは違い、傭兵の装備は鎖かたびらだけだ。
簡単すぎるくらい簡単に鎖骨へ柄がめり込み、鎖骨が折れる嫌な音がした。
そのまま俺は左の裏拳で後ろを振り抜く。
剣ごと真後ろの男を殴り飛ばす。
「ぎゃんッ!」
三人の男を倒した俺は最後の一人へゆっくりと近づく。
「ふ、ふざけんな! 聞いてねえ! こんなヤベエやつを捕まえるなんて聞いてねえ!」
失礼な。
「お、お前ずるいぞ! よ、傭兵だなんて聞いてねえぞ!」
傭兵が俺に剣を向ける。
手が震えている。
「兄妹とケルベロスの鎧の貴族のガキを攫うだけって言ってたじゃねえか!」
「おい、教えてやる。狂犬って聞いたことねえか?」
「狂犬? 傭兵じゃ名乗るやつはよくいるが……お偉いさんで使うのは国王くらい……ってお前……まさか……」
「運が悪かったな。正解だ」
「待て! いや待ってください! 俺は団長に騙されただけで!」
「寝てろ」
俺はこの世界ではない技をやることにした。
恐ろしく地味な技だ。
ステップインから体重全部をかけて相手の膝の横に蹴りを繰り出す。
ローキックだ。
べきりという音がした。
「ひぎいッ!」
一発で撃沈。
ローの受け方を知らないからだ。
俺はその辺からロープを拾ってくると適当に捕縛した。
「さすがです陛下」
いつのまにかソフィアがいた。
護衛のはずなのに見てやがったな。
「ソーフィーアー!!!」
「怒らないでください。第零軍は最小限の関与と仰ったのは陛下です。楽勝でしょうから放っておきました。たまには本気を出すのもいいでしょう」
「ぐぬぬ!」
酷い! 見てるなんて!
俺はブツブツと文句を言う。
俺が目立つ場所で四人を一人でボコボコにしたせいか、あたりは静寂に包まれた。
総崩れってほどじゃない。
「俺が行く」
「団長!」
傭兵の頭が歩いてきた。
「もう兵を再起不能にされるわけにはいかねえ。おいあんた、一騎打ちしろ」
「いいだろう」
俺は騎士を下がらせる。
俺の所に傭兵の頭が来た。
傭兵の頭はハルバードを持っていた。
斧と槍の合体マシーンだ。
本当に殺す気じゃねえか。
あーやだやだ。
俺は剣を手首でクルクル回した。
「あんた、その小さな剣でいいのか?」
「放っておけ。使い慣れてるものが一番強い」
「違いねえ!」
傭兵の頭がハルバードを俺の頭に振り下ろした。
高い装備でもさすがにこれを食らったら死ぬ。
ものが重すぎていつものように払うこともままならない。
俺はバックステップする。
「甘いぜ! 坊ちゃん!」
当たり前だ。
振り下ろした刃を今度は突きに変化させて刺してくるのだ。
俺はわかっていた。
だから、その場で飛び上がった。
鎧の重量から言って結構無茶な技だ。
だから1回こっきりの一発芸なのだ。
超必殺技的な? よくわからん。
「なッ!」
ハルバードが俺の胴があった場所、今は足の下を通る。
そして俺は空中でハルバードを踏みつける。
ハルバードは土にめり込んだ。
最後に俺は傭兵の頭の喉に剣を突き立てた。
「どうだまだやるか? 降参したらケツを蹴とばすだけで許してやる」
「坊ちゃん……いや旦那……アンタ何者だ?」
「テメエらは自分の国の国王も知らねえのか?」
俺はわざと挑発した。
「そうかアンタが狂犬か……なにが狂犬だ……化け物じゃねえか」
「まあ、苦労してるからな」
「わかった降参する。俺たちは何をすればいい?」
これでパズルのピースが揃った。
あとは罠にはまった判事どもを狩るだけだ。
「そうだな。とりあえず裁判だ」
俺はニヤニヤしながら言った。
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