第67話 序盤

 見張り台から土煙が上がるのが見えた。


「ほれーやっぱり来たじゃん」


 俺は意地悪な顔をして言った。

 ソフィアが呆れた顔をした。


「ほれー。じゃないですよ! じゃあなんで騎士学科の学生たちを連れてきたんですか!」


「それは後でわかる」


 ふっふふー。

 ただ連れてきたとか、訓練のためとかじゃねえ。

 もっと政治的な意図があるんだよ!

 ぐははははは!


「エドワード。お前のパワーなら見張り台から狙撃できるだろ。くれぐれも仲間を撃つなよ」


「ふん。そんなことはしない。王よお前の生き様を見せてもらうぞ」


 まったく大げさなやつだ。

 俺はポリポリと頭を掻いた。


「あのな、生き様なんて大層なもんはねえよ。常に勘で生きてるだけだ。まあ見てろ。俺の前では死亡フラグなどなんの意味も持たないことを証明してくれる!」


「死亡フラグ?」


 ソフィアが首をかしげた。

 俺の奇妙な言動はいつものことだ。

 特に問題にはならないだろう。


「まあ気にすんな」


「それで私はどうするの?」


 フル装備のマーガレットがつまらなそうに言った。


「待機。って言いたい所だけどそれじゃ収まらんだろ?」


「うん」


「マーガレットはキャロルと組んで遊撃。同門で戦術も知れてるだろ。俺たちが敵を引きつけるからサイドから攻撃しろ」


「うん。キャロルは?」


「わかったわ」


「ダズ。お前らは俺の指示通りに行動しろ」


「いやでもこれはさすがに卑怯じゃ……」


 ダズは反論したが却下だ。

 なにを却下したかはすぐにわかる。


「うるせえ。勝ちゃいいんだよ勝ちゃ」


 なぜかキャロルが俺を指さしたまま固まってる。


「え? 王様ってそういう人?」


 マーガレットが頷く。


「うん、混沌から生まれた生き物。それに陛下の先生はたぶん私たちと同じハイランダー」


「……なんで私が出し抜かれたかわかったわ」


 キャロルは忌々しそうに言った。

 ふはは! 俺の勝ち!


「でもキャロル。意識を取り戻したらモーリスには謝っておけよ」


「やだ」


「なんでよ」


「あいつ私たちが偽貴族だってわかったら自分の女にしようとしてきたのよ」


「モーリスは評判は悪くなかったようだが」


「別に信じてもらおうなんて思ってない」


 キャロルがぶっきらぼうに言った。

 本当にどうでもいいのだろう。

 やはり人間には裏がある。

 外側から調べただけではわからないことばかりだ。


「信じるよ。むしろこれで最後まで謎だったお前の動機がわかって得心がいった。それと最高法院長はなぜ襲った?」


「モーリスの親に報復される前に殺そうとしたのよ。どうせ殺されるなら復讐を果たした方が得でしょ? それに貴方を信じてた。今の王様は誰にでも公平って評判だからね。最後の手段で最高法院長を半殺しにすればアンタが事件を調べると思ってた」


 真のキャロルは結構口が悪い。

 素晴らしい猫を飼っていらっしゃる。


「なるほどな……バカにされた気分だ」


「違うよ。アンタはアンタが思っているより民に好かれてるんだよ。あんた町でなんて言われてるかわかってる?」


「なんだよ」


「悪いことすると狂犬が来て食べられるって子どもに教えるんだよ」


 俺はなまはげか何かか?


「なんだそりゃ?」


「いいじゃない。神様扱いだよ。愛されてるねー」


 キャロルがバンバンと背中を叩いた。

 すでに自分と同キャラと認識してるのか、キャロルの俺への態度がどんどんぞんざいになっていく。

 なるほど。やはりキャロルはこういうやつか。


「じゃあ、死なないでね。キャロル行こう」


 マーガレットがキャロルと外に出る。


「んじゃダズ行こうぜ!」


「なんだか最近思うんです。俺、一生陛下とこういうやりとりしそうだなあって……」


「キノセイダヨ」


 俺もそんな気がする。



 卑怯な手とは簡単だ。

 俺は藁の中に騎士を隠したのだ。

 ダズと彼の従騎士だ。

 しかも馬止めの近くにだ。

 俺は堂々と馬止めの近くに立っている。

 ソフィアも一緒だ。

 二匹の馬がやって来る。

 斥候だろう。

 俺は偉そうな態度でふんぞり返った。


「何の用だ?」


「リンチ兄妹を寄こせ」


「いやぷー」


「なんだと?」


「嫌だ。帰れ」


 どう考えても俺を抹殺しなければ判事どもは詰む。

 言うことを聞いてやる気はない。


「いい度胸だ。おい、コイツの耳と鼻をそごうぜ」


 二人の傭兵は俺を痛めつけることにしたらしい。

 馬止めをすり抜けて俺の方にやって来る。

 だから俺は合図した。


「やれ!」


「うおおおおおおおおお!」


 藁の中からダズたちが出る。

 手には槍を持っている。

 ダズはたちは槍を馬に突き刺す。

 馬が悲鳴をあげ傭兵たちが馬から振り落とされる。

 はい二人捕獲。


「だから言っただろ。勝ちゃいいんだよ」


 俺は嗤う。


「へ、陛下……」


 ダズは声が震えている。

 初めての実戦だ。そんなものだろう。


「さあ次の作戦だ。いいか絶対に相手よりも多い人数で戦え。基本は囲んでボコボコだ」


 俺は身も蓋もない作戦を提示する。


「かしこまりました」


「よし次は荷台だ」


 荷台を何に使うんだって?

 そりゃ楽しい使いかたさ。


「網はあるか?」


「持ってきております!」


「よし、怖がるなよ。俺の言うとおりにしてれば安全だ」


「い、いやでも相手が強ければ……」


「大丈夫だって。みんな俺と従騎士を信じろ」


 俺はニヤニヤしながら言った。

 ふははは! ふははははははは!

 俺に逆らうものの末路を教えてやるぜ!!!


 第二波はなかなか戻ってこない斥候を見に来た10人ほどだった。


「だから言っただろ? 戦力の逐次投入。一番の愚策をやらかすって」


 俺はソフィアと高台から見ていた。


「ではどうするんですか?」


「荷台を使う」


「どういう意味です?」


 ロバに引かせる荷台。

 日本人的に言えば大八車に似たものだ。

 あとは荒ぶる大八車で突撃だ。


 ダズたちが大八車を押して突撃する。

 確かに槍は驚異だ。

 だが道が狭い街に馬で入ってきた時点で傭兵は負けだ!

 それに他の班も複数で取り囲んで槍で叩きまくる。

 形成が逆転しそうになると見張り台からエドワードが狙撃する。

 それと共にマーガレットとキャロルがサイドから攻撃する。

 簡単に言うと常に俺のターンだ。

 傭兵は次々と馬から落とされていった。

 なんでこうなるのか?

 それは簡単だ。

 騎士学科の学生は全員俺の洗礼を受けている。

 お坊ちゃんの道場剣法ではない実戦の武術だ。

 それに楽しく遊んでいるように見えるが騎士学科のカリキュラムは騎士団でやったら退団が相次ぐレベルのものだ。

 要するに彼らはどこにでも通用するレベルなのだ。

 あとは自信をつけるだけだ。


 騎士学科の学生たちが勝利の雄叫びを上げた。

 10人全員を捕縛したのだ。

 これで序盤は乗り切った。

 次は甘くない。

 次こそ本番なのだ。

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