第28話 叔父貴

 またもやあてがわれた臨時の執務室。

 王族に使わせるせいか無駄に広く調度品は豪華だ。

 豪華なことしかわからない。

 元の世界で通販で3000円で買った椅子と座り心地は変わらない。

 そのくせ装飾はキラキラしている。

 なにこの無駄。

 価値がわからない俺にとってはまさに豚に真珠だ。

 ブタさんぶーぶー。

 机の方も無駄に豪華で装飾過多でどこか落ち着かない。

 はっきり言ってメタルフレームの事務机の方が好きだ。

 なぜ無駄に部屋の描写をしていると言うと今は待ち時間なのだ。

 相手はエリック叔父側の使者。

 もう一時間は待っているだろうか。

 俺はエリック叔父貴へ訪問の約束を取り付けた。

 貴人は意味のない伝言ゲームが大好きだ。


 今から訪問しますよ。従者A。

 はいはい将軍の側近の従者にお伝えしますよ。従者B。

 ほいほい将軍の側近にお伝えしますよ。従者C。

 へいへい将軍の従者の側近にお伝えしますよ。従者D。

 ほーい将軍の従者にお伝えしますよ。従者E。

 あいよー将軍一丁上がり。ゴール。

 どこのダメなラーメン屋だ……


 あー!

 王族面倒くさい!

 このように王族と話すには無駄な待ち時間ができる。

 なので俺はなるべく直接乗り込むことにしている。

 ゲームのロード時間ですら許せないのにこんな面倒な手順なんか踏めるか!

 本来なら俺のように直接乗り込むのは本来マナー違反だ。

 俺は王族で子どもだから許されている。

 自分の立場は最大限に利用させて貰うつもりだ。

 だが今回は手順を踏まなければならない。

 よく考えるとシェリルのところでいきなり現れやがったのに俺が会いに行くには手順が必要とか理不尽すぎる。

 この椅子持って部屋で暴れたい気分だ。

 大人げないからやらないけどな。

 俺がかなりイライラしながら待っていると叔父貴の従者が部屋にやってくる。


「殿下。銀羊宮でご会談の用意ができております」


「はい」


 俺はギュンター将軍と一緒に着いていこうとする。

 ライリーもあとから連行される予定だ。

 ところがここで従者が口を挟む。


「ギュンター閣下はご遠慮ください。第2軍将軍である貴方様が行けば第3軍との軋轢が生じます」


 俺は恐ろしく育ちの悪い態度でふんぞり返っていた。

 ギュンターは俺を見て頷いた。


「いいですよ。ただしローズ伯爵一行に護衛して頂きます。よろしいですね」


「今からでしょうか? それは時間がかかるのでは?」


「いいえ。ローズ卿パパりん行きましょう」


 俺がそう言うとローズ伯爵が俺の後ろから出てくる。

 勲章をジャラジャラつけた正装ではなく、装飾の少ない丸い胸鎧を着用している。

 腰の剣も室内戦で有利な短くて細身の剣だ。

 短剣も隠しているだろう。

 今回の会談が話し合いから殺し合いに発展してもいいと理解している装備だ。

 こういう自分のポジションを理解してる人って大好き。

 ローズ伯の後ろにはこれまた凶悪な顔の騎士が二人。

 顔だけなら確実にこちらが悪役だ。

 なぜ俺の仲間は顔が怖い連中が多いのだろうか?

 それに三人だけではない。

 ゲイルが見守っている。

 少なくとも死ぬことはないだろう。


「は、はあ、主にお聞きしないと……」


「なんの問題がある?」


 俺は笑うのをやめた。


「い、いやそれは……」


「説明できないなら関係ないな。ではローズ伯爵行きましょう」


 俺は従者を無視してローズ伯爵と部屋を出る。

 こういう強引さも時には必要なのだ。

 俺はギュンターにも目配せをしておく。


「どうぞご無事で」


 ギュンターは俺に頭を下げた。

 俺は歩く。

 確かにエリック叔父貴は高い確率で俺を殺そうとはしないだろう。

 俺は安全だ。

 だけど、人間というものはわからない。

 国立大学を出ても殺人犯になるようなのもいるし、スラム街で育ってもまともな一生を送るものもいる。

 人間は常に合理的なわけではないのだ。

 展開によっては死亡ルートもありえる。用心するにこしたことはない。


 中庭に出て銀羊宮に向かう。

 銀羊宮は外交官や他国の使者を呼んで会談する施設だ。

 広くて遮蔽物がなく見晴らしも良い。

 それはそのまま警備のしやすさに繋がっているのだ。

 この世界にはライフルもないしゴ○ゴもいないのでおそらく大丈夫だろう。

 第三軍の騎士が入り口を警備していた。

 俺はニコッと騎士に笑いかけ中に入る。

 中にはエリック叔父貴がいるのが見えた。

 ちなみに上座である玉座に堂々と座っている。

 俺たちには木製の椅子が置かれていた。

 明らかに安物だ。

 俺に対する挑発のつもりなのだろう。

 だが俺には効かない。

 なぜなら俺は王座などいらないからだ。


「よう叔父貴」


 俺はなるべく下品になるように気を払った。

 主導権を取るための演出だ。

 もちろん軍人である叔父貴にこの程度の演出が有効だとは思えない。

 だが今の俺は小細工を積み重ねていくしかないのだ。


「それが……お前の本性か」


 弱々しい声だった。

 会わなかったのはたった数日のはずだ。

 それなのに叔父貴はやせこけていた。

 目はくぼみ頬はこけ、その顔には生気がなかった。


「叔父貴……その顔は……」


 俺は完全に主導権を取られていた。

 いったいどういうことだ!


「最後の最後に……お前に出し抜かれるとはな……」


 いやいやいや。

 俺はなにもやってない。

 どうしてこうなった?


「私はなにもやってませんよ」


「今さらなにを言っている……毒の使い手がお前の他にいるものか……」


「いえ、私は毒の回避の仕方は知っていても毒の使い方なんて知りませんって」


「ふふふ、ランスロットを殺らせはせんぞ。我が命をかけてもお前だけは止める」


 そう言って叔父貴は剣を抜いた。

 ローズ伯爵も剣を抜く。

 いやいやいやいや! なんで俺が悪いみたいになってるの?


「ちょっと待て! 俺がランストロットを狙う!? ふざけんな!」


「うるさい! 俺は知っているぞ。お前は出生の秘密に気づき、王の座につくためにランスロットを殺そうとした」


 叔父の目は怒りに燃えていた。

 その目やめろ。

 まるで俺がラスボスみたいじゃないか。


「お前は兄上を脅し、外国人とつるみ、そこのバカをも仲間に引き入れた。俺は全て知っているぞ!」


 ギュンターはすでにこの国の人間だし、ローズ伯爵は欲望に忠実だがバカではない。

 酷い偏見だ。

 それにおかしなことを言っている。


「私が陛下を脅すって……どうやって?」


「ハイランダー征伐の真実のことだ! 未だにそれを恨んでいるあの男……ギュンターはそれを貴様に教えた!」


「はい? ハイランダー征伐の真実って……メリルがハイランダーって以外になんの秘密があるんだよ!」


「で、殿下……メリル様がハイランダーってどういうことですかな……」


 訳:パパりん大ピンチー!!!


 ローズ伯爵が狐につままれたような顔をした。

 あ、やべ。

 裏切りフラグ立てちゃった。


「ろ、ローズ卿。い、今は気にしないでくれ!」


 俺はごまかす。


「は、はあ」


「だいたいハイランダーの真実って一体なんだ? 俺がランスロットを殺すわけがないだろ! だいたい俺は王になんかなりたくない!」


「にゃにゃんですと!!!」


 訳:パパりん大ピンチ!


「ローズうっさい」


 思わず声に出していた。

 ローズ伯爵は慌てて黙る。


「ふふふふ……そうか……本当に知らないようだな……では今のうちに潰しておくか……」


 叔父貴は下を向くと笑った。

 その姿はまるで自分自身を嘲笑するかのようだった。

 ローズ伯爵は片手で握った細身の剣をエリック叔父貴に向けていた。

 エリック叔父貴は顔の横で構え切っ先を相手に向ける。

 雄牛の構えだったと思う。

 エリック叔父の後ろからはメイスやハルバードを持った騎士がゾロゾロ出てくる。

 ……これは死んだかも。

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