第11話 優秀な士官

 太い方がベン。

 細い方がライリーだ。

 優秀な士官にしては「これこれこういう実績を上げました。こんなに優秀なんです」という経歴の説明がない。

 売り込むならもっと言うことがあるだろうに。

 おそらく叔父貴は二人のことは何も知らないに違いない。

 王族ってのは会社で言えば本社の重役だ。

 それが現場の班長レベルを知っているはずがない。

 本社社員である下級貴族だってあやしいものだ。

 確かにそれは仕方がないのかもしれない。

 でも俺の護衛をそんな適当に決めやがったのは文句の一つも言ってもいいはずだ!

 ふざけんなてめえ!

 と、ブチ切れたその刹那、俺の頭に突如として悪魔的考えが浮上した。

 こういうときはだいたい嫌がらせのアイデアなんだよな。

 ボクちゃん最低♪

 俺は名探偵ぶって二人を驚かせることにした。

 ただの嫌がらせのために。


「それで、具体的にはどなたが私を護ってくれるのですか?」


 俺は悪い顔をしながらライリーに近づいた。


「ライリー、手を見せてください」


 俺はライリーの手をつかむと手の甲を見る。


「やっぱり拳ダコがあった」


 俺はにやあっと笑う。

 やはりライリーは打撃系の格闘者だったか。

 鼻が曲がってないから自身はなかったんだよね。

 打撃系はこの世界では不遇だ。

 この世界では俺の調べた範囲では銃はない。

 なので戦場の武術は甲冑組み討ちがメインだ。

 つまり投げ技と寝技がメインなのだ。

 もちろん打撃自体はあるが、あくまで打撃は投げ技への繋ぎ技。

 打撃だけをやるというのは珍しいのだ。

 押さえつけて殴った方が早いからな。

 打撃系は『お遊び』というレッテルを貼られている。

 どうだこの推理力!!!

 テレビつければ格闘技の中継やらミステリードラマをやってる現代人を舐めるなよ!


「まぶたの傷。それは拳闘でついたものですね」


 もうノリノリで俺は言う。

 拳闘と言ってもこの世界のは、ボクシングとはだいぶ違う。

 まず、厚いグローブはない。

 薄い皮の手袋だけだ。

 なので素手で戦うのと同じように拳を鍛える必要がある。

 それが拳闘にできた拳ダコだ。

 拳闘は、まず顔を殴られないようにガードを固めて、すり足でお互いの間合いまで近づくとひたすら胴体へパンチを打ち込む。

 ボディへのダメージが溜まってガードが下がったら、がら空きの顔面に拳をねじ込む。

 技術やスピードよりも攻撃に耐えるタフさが必要なスポーツだ。

 ……俺は絶対やらないからな。


「……これは……殿下は恐ろしいお人だ」


 なぜかライリーは人のよさそうな顔を少しだけ歪ませた。

 やっべぇ。

 隠しておきたい情報だったか。

 いらん所つついちまったぜ。

 俺は慌てて話題を逸らす。


「ベンはレスリングですよね?」


「この腫れ上がった耳ですね。恐れ入りました」


 ベンはそういうとにこりと笑った。

 人のよさそうな好青年じゃないか!


「気に入ってくれたようだね。では二人とも後は頼む。レオンは中庭に行きなさい」


「ほえっ?」


 ちょっと待てコラ。

 てめえ今なんて言った?


「二人に護身術を習いなさい。今からでもやらないよりマシだろう」


 『生兵法は怪我の元』って言葉をクソ叔父貴に教えてやりたい!

 ゲイルの訓練だって効果があるかわからないんだぞ!


「では頼んだよ」


「はッ!」


 ざけんなああああああああああ!!!


「お、お母様……」


 た、助けてママン。

 ぼ、ぼくちゃん、ゲイルの練習だけで体中が痛い……


「レオン、耐えるのです。王ともなれば様々な困難が待ち受けるでしょう。今、努力をすれば未来に……王になるその時に繋がるのです」


 王になんかなりたくねええええええええええ!

 俺は心で叫んだ。


「レオン」


 俺を王にしようとするヤツはあとで地獄見せてやるからなー!!!

 おぼえとけよ!


「レオン!」


 って、なんでしゅかおかーたま。


「ふぁ、ふぁい」


 俺が生返事をすると、突然シェリルは俺を抱きしめた。


「レオン。私はあなただけは守ります」


 声がうわずっている。

 シェリルは泣いていた。

 いや泣かしてしまった。

 シェリルは演技が出来るタイプではない。

 なんたってくそ真面目なのだ。


「は、はい! 死なないようにがんばります!」


 なんで俺はこういうときに気が利く台詞の一つも言えないのだろう。

 嫌味なら無限にわくのに。

 実に残念なキャラだ。


「お願い。死なないで」


 俺は頷くしかなかった。

 そしてそれを見計らったかのようにベンとライリーと叔父貴は俺を連れ出す。

 こうして俺は中庭へ連行されていったのだ。


 うおおおおおおおおお!

 離せええええええええええッ!


 それでも嫌なことは嫌なのだ。

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