第220話「レイライン」

 得度兵器拠点の地下には強力な徳エネルギーのラインが通っている。其れだけならば、何の不思議も無い。つまるところ送電線グリッドのようなものだ。施設内での活動や、外郭の集落デポとのエネルギーの融通。使い道は幾らでもある。

 衛星からの情報を繋ぎ合わせば、その形が見えてくる。そして、網の形が見えれば、「中枢」の位置も自ずと分かる。その狙いは、当たっていた。施設構造に起因するトラブルはあるようだが、施設の「本当の中枢」の位置は、およそ明らかになった。

「……問題は、その中に妙な系統があることだ」

 前線指揮を続けながら、ノイラは呟く。

 施設の『外』に続く系統がある。それも、只事ではない太さだ。容量で言えば四国の「オヘンロ・エンジン」からのパイプラインに匹敵するものが、真っ直ぐと西へ伸びている。徳カリプス以前には、そんなものがあったという記録は無い。

 抑、徳エネルギーは『自給』に有利な構造を持つ。例えば宗教的聖地等が元から「供給地」として存在する場合、余剰のエネルギーを消費地へと送るラインは有り得る。だが、非徳エネルギーの如き大規模送電網は、無用の筈なのだ。

「キョートからエネルギーを引き出しているのか……?」

 直ぐ様思い当たるのは、徳カリプスの「爆心地」。

 其処から得られる膨大なエネルギーを張り巡らせるためか。理屈は通らなくはない。得度兵器は、単独で徳エネルギーを発生させることができない。つまり、人類にとっての非徳エネルギーと扱いは変わらない。

 しかし、詳細な情報には、長時間の観測が必要だ。今確保できる衛星の「観測窓」には時間的限度がある。

 だが、今問題なのは、膨大な徳エネルギーの『使い方』の方だ。心当たりとしては、

「『フィールド』の使用……」

 徳エネルギーフィールドを施設に展開されれば、その時点でこの侵攻計画は詰む。だが今のところ、使う素振りは無い。徳エネルギー機器との干渉問題について、彼女達は詳細を知らぬ。

 1分足らずで、思考は収束した。膨大なエネルギーを食らう『何か』に警戒する必要はあるが、現状手立ては無い。

 車列の先頭は、ある程度の犠牲を払いながらも拠点内部に食い込んでいる。後は、ガンジー達と……拠点に『潜んでいた』者達が間に合えば、勝てる。

 得度兵器全てを倒さずとも、拠点を使い物にならなくすれば最低限の拮抗は保てる。その成算は、不確定要素込みで、恐らく現時点で6割程度。彼女は優秀だった。だが、『戦争』には慣れていなかった。だから知らなかった。勝ちが見えた時にこそ。戦場の霧は牙を剥くことを。



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 ドームの出口階層に戻ってきたガンジー達は、座り込んで施設の図面を確認していた。ガラシャと僧兵達は元の場所には居なかった。

「……どうやらこの拠点には、『動力炉』が三基あるらしい」

 『動力炉』とは即ち、拠点に貯蔵されているブッシャリオン・サンプルだ。

 得度兵器は人間を動力源とするケースも多いが、この拠点の場合は人間の居住区をガラシャ達の村のように拠点の『外』へ出し、拠点内は動力炉で維持を行っている、というのが見立てだった。

 根拠は単純に、拠点内に「ドーム」以外の居住施設がほとんど見当たらないからだ。つまり、ドームとクーカイ達にさえ気を遣えばいい。問題は、

「地上から向かうには、位置が離れすぎている。一つずつ潰していては、恐らく間に合わない」

「……何にだ?」

「拠点の戦力がのにだ」

 空海達は、拠点の保有する戦力を日々の偵察で把握していた。だから、今の拠点が平時と比べて空き家同然であることにも、既に気づいていた。

 ……消えた戦力が、何処へ向かったか。彼の知る限り、答えは一つだ。この拠点の得度兵器が大戦力を投入して制圧を行うような勢力など、他にありはしない。彼の故郷だ。

 空海が焦燥に駆られていると。

「……つまり、さっさと動力炉をぶっ壊せばいいんだな?」

 ガンジーは口を開いた。正直なところ、ガンジーにはそれしかよく分からなかった。

「そうだ。だが、この拠点は山地に構築されている。地上から動力炉に向かうには、迂回か山越えが必要になる」

「……なら、バラバラに行くしかねぇか……?ガラシャ達と合流して……」

「それも問題だ。一体何処へ……」

 彼等が地下へ潜っていた間、ガラシャ達が何をしていたのだろうか?


 それを知るには、この拠点を巡るもう一つの戦いを語らねばならない。



▲現在の戦況▲

・ガンジー&空海

 地下より帰還。3つの動力炉の攻略法を思案中。

・ガラシャと僧兵達

 行方不明。

・ノイラと侵攻軍

 得度兵器と戦いながら拠点内部へ侵入。拠点外へのラインに気付く。

・得度兵器

 交戦中の機体1。増援を集結中。

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