第214話「合流」

 徳カリプスから15年を経て。低軌道(LEO)より地へと降り続ける仏舎利衛星群を得度兵器達は集め続けていた。しかし、彼等には『人の住まぬ場所』への関心は薄かった。『仏舎利』という戦略物資への関心も、それと同様だった。

 だから最初は、彼等に指示を出す奇特な人間の命に基いて。人類総解脱という目的の片手間に集めていたに過ぎなかった。

 より正確に記述するならば。ブッシャリオン・サンプルの『帰還ポイント』は、過去に定められた人類同士の盟約……ムンバイ協定によって人類が建造した大型施設に集中していたし、その大半は徳カリプス後の十年間で得度兵器のものとなっていた。故に殆どの場合、得度兵器は仏舎利を集める必要すらなかった。

 そして、『それ』を手にするうち。彼等は使い道を学んでいった。

 得度兵器の動力源として。より強力な機体のエネルギー源として。そして……『全く新しい方法』の糧として。

 その全貌を知る者は、未だ人の内には居ない。但し。今、確かに存在するものは。彼方の砂漠に描き続けられる、無辺の砂絵と。そして……拠点内部へと構築された、膨大な徳エネルギーバイパス。亜種マンダラ・サーキットを用いた、巨大な徳エネルギー回路。

 北関東拠点の備蓄仏舎利を全て開放すれば、拠点内部を丸ごと浄土の内へと沈めることが叶うやもしれぬ。

 しかし、『その選択』は、より大きな目的のための棘となる。だから、彼等はそれを良しとはしない。得度兵器という巨大な意志は、人類の解脱を優先する。

拠点放棄プロセスは即座に棄却され、代わりに防衛システムが起動する。北へ出撃した機体を呼び戻し、そして……『別の拠点』へ増援を要請する。

 別方面の『門番』が、侵入者を『救い』に向かうまで。増援が拠点へ舞い戻るまで。ガンジー達に残された時間は、あまりに僅かだ。



「……この拠点の中枢は、どこにあんだ!?ドームの中だろ!?」

「いや、このドームは人類の構築した遺物。ただの『箱庭』だ……」

「じゃあ、俺達は何処を落としゃいいんだ!?」

 ガンジー達はクーカイ達の到着を待つ間、手短に情報交換を行っていた。しかし、それは直ぐさま暗礁に乗り上げた。拠点の中枢と目されていた巨大ドームが、実のところ単なる人類の居住区であったことが判明したたためだ。

「……わからない。だが、ドーム内へ突入されるのは、『困る』」

「せめてクーカイ達に連絡が取れりゃ……」

 さりとて、代わりの目標がある訳でもなく。ガンジーは頭を抱えていた。

 この拠点の内では、手持ちの通信の類が殆ど使えない。予め電波妨害の類は想定されたので、それに合わせた計画を練ってはいるが……通信障害そのものへの対策は手薄だ。

「なにか、通信機とか無いの?」

「そもそも集落は巨大な徳ジェネレータの内側故、外との通信は……」

「徳ジェネレータ?村ごと動力源に使ってんのか?」

「いや、地下にジェネレータはあるのだが、多少複雑で……」

「……あ」

 そこで。光定少年が、何かを思い出したように口を開いた。

「あの地下の……」

 地下の施設群にあるのは、ジェネレータだけではない。徳エネルギー演算器(マナ・プロセッサ)による演算区画も存在する。

「……そうか、中枢ではないにせよ、プロセッサを破壊すればダメージが与えられるか……」

 破壊しても恐らく致命打にはならぬと、『解析』のために今まで活かしてきたが。今ならば、話は別だ。僅かでも隙を作れるなら。それを突く手段が存在する。

「何かあんだな!」

「……えーっと、『作戦のしおり』だと、狙い目は演算器と徳エネルギー源って書いてある」

 ガラシャはポケットから取り出した作戦手順書を読み返していた。表紙には可愛らしい文字で「よくわかる拠点攻略戦」の文字が踊っている。

「正にそれだ!案内しよう」

「……でも、『合流するまで待機しろ』って栞に」

「わかった。ガラシャ、残れ」

「わたしだけ!?」

「俺は、この坊さんと風呂雪駄とかいうのを壊しに行く」

「プロセッタ……違う、プロセッサだ。確かに、元々多人数で入り込める場所ではないが……」

 あの区画までの通路は、人間の侵入を想定していない。以前に潜入した時も二人だけだった。人数は少ない方が良い、と空海は考える。問題は、此方の方だ。

「……頼めるか?」

 空海は、少年へ告げた。僧兵部隊は、未だダメージから回復しきっていない。多少なりともマシな……指揮を任せられる者は、他に居なかった。

「……わかった」

 少年は浅く頷いた。

「決まりだ」

 ガンジーは装備一式を抱え上げる。その中には、ドーム内への強行突入に備えた爆薬がまだ少し残っている。

「『壊していい』ならば、拙僧も全力を出す」

 彼等は二手に分かれた。ガラシャと光定達は、ドームの外縁にとどまり。ガンジーと空海は地下を目指す。

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