第133話「誘引作戦」
東京湾宇宙港跡地。その中枢には、円形のマスドライバーが横たわっている。
このマスドライバーは磁力によって物体を加速し、軌道への到達速度の一部を肩代わりする装置だ。
建造物の解体には、屡々建造よりも多くの労力がかかる。まして、高度に建築作業が自動化された時代であれば尚更だ。その一点の理由によって、この独特な形状の施設は空港閉鎖後も長きに渡って放置されてきた。
時間は施設の機能を蝕み、マスドライバーとしては最早使い物になるまい。だが……
「まだ、生きている部分がある」
ガンジーとクーカイはその管制室に立っていた。彼等の目的は得度兵器を誘き寄せること。物体加速用の巨大超伝導磁石が、まだ施設内に残されていることに、彼等は気付いた。
施設の遮蔽を取り払い、生きている超伝導コイルに焼き切れるのを覚悟で電力を供給すれば、爆発的な磁界が放出される筈だ。通信波程度ならば、無視される可能性もある。だが、これならば見過ごせまい。
「……これ、本当に動くのか?」
「冷却システムが殆ど死んでいる。一瞬だけ稼働すれば、御の字だ」
エネルギー源も問題になる。この空港の中には、徳ジェネレータは存在しなかった。この巨大な空港は、徳エネルギー以外の動力源と、外部から供給されるエネルギーによって稼働していたのだ。
幸いにして。クーカイにとっては不幸にして。実行のための資材は、空港内で自給可能だった。替えの送電ケーブル。大量の波力発電機。その他。
通信機も発見されたが、クーカイはガンジーには黙っていた。まだ、実行までには時間がかかる。最低でも数日、トラブルが起こればもっと延びる。
「……本当にやるのか?」
「やらねぇ理由が無ぇ」
今は、冷却装置が大気中窒素から液体窒素を製造している。超伝導コイルを稼働させるために必要な冷却材だ。
「わかった、手順を確認しよう」
クーカイは相棒に告げる。今は揉め事をしている時でもない。
準備段階で空港で消費されている電力。それによって生み出される熱量。そうしたものが、得度兵器を呼び寄せる危険もある。既に、彼等はリスクを犯している。今この瞬間にも、攻撃が始まってもおかしくはない。
「コイルを起動させれば、強力な磁界が発生する。建物からはなるべく離れた状態で行うことだ。特に、端末は気を付けろ。確実に壊れる」
空港から回収した記録媒体はガラス素子で作られた高密度光ディスクだった。磁力の影響を直接受けることはあるまいが、既に纏めて地下道へと移してある。彼等にとっての当初の目的は、それで終わった。
後は、ガンジーの計画だけだ。
「わかってる」
ガンジーは端末の画面を見ながら答える。
そこには、海上の得度兵器拠点のリアルタイム映像が映し出されていた。急造の監視システムだ。
「……船のデカブツが、戻ってきたぞ」
「本当か!?」
画面上には鯱めいた得度兵器の輸送船が映し出されている。その横腹が開き、貨物が積み出されてゆく。それが何かまでは、この距離では分からない。
だが、最後に船から運びだされた物が何なのか、それは彼等にもはっきりと分かった。傘と杖のような付属品が付いた人型の影
……やや小柄ではあるが、間違いなく得度兵器だ。
タイプ・ジゾウMk-Ⅱ。それは、彼等の街を襲った機体の同系列機であった。
「増援か……!」
「だから言ったじゃねぇか!」
タイミングから察するに、増援というよりは元々予定の一部なのだろうが。数が増したことに変わりは無い。
「だが、何故このタイミングで……」
クーカイは、不自然さを覚えた。彼とて、得度兵器の行動原理に詳しいわけではない。だが、態々海辺に、拠点を構築している理由は何なのか。本当に工業地帯を抑えるだけなのだろうか。
クーカイは、相棒の方をチラリと見遣る。ガンジーならば、何か思い付くのかもしれない。だが、今の彼は……
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ブッシャリオンTips タイプ・ジゾウMk-Ⅱ
田中ブッダの建造したタイプ・ジゾウ改の運用データを得度兵器中枢が本流へフィードバックし、改修された長距離狙撃型得度兵器。改と同系列の複合レーダーを装備し、移動能力を殆ど切り捨て、狙撃能力に特化している。また、外部からのエネルギー供給によって稼働時間の増強も果たした。
東京湾における『都市』攻略戦で初投入された。
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