第35話「閑話」

「やってるか?」

 ガンジーとクーカイの二人が予備の徳ジェネレータを整備していると、ノイラが姿を現した。

「明日中には、整備が終わるぜ」

「んー、そうか。今稼働中の方も、調子は良好だ」

 予備部品を教材代わりに、二人は整備や補修の練習をしているのだ。『発電用』を調整しているはノイラ本人である。

「やっぱり、野良じゃない得度兵器は部品の質が違う」

「野良とかあるのかよ……」

「単独行動する得度兵器は格好の餌だが、あの里の近くの得度兵器はそうじゃない。『栄養状態』が良かった。メンテナンスも行き届いていたようだしな」

「徳エネルギーが安定供給される状態にあった、ということか」

「うん。得度兵器は、徳エネルギーを大容量キャパシタに蓄えている。ジェネレータは補機だ。つまり、徳ジェネレータを使った形跡の少ない得度兵器ほど、安定的な補給を受けている、と判断できる」

「あの街はやはり、勢力下ということか……」

 クーカイは黙考する。あの街を放置して良かったのかと。

「4体も喪失すれば、流石に暫くは控えるさ。それより手を動かしたまえ」

「そういえば、俺達も途中で尾けられてただろ。得度兵器がこっちに襲ってきたりしねぇのか?」

 ガンジー達は、帰路に高速飛行型得度兵器に目撃されている。

「手を動かせと言っているだろう……だが、それは多分大丈夫だ」

「なんでさ」

「確かに、気になるな」

 『多分』が引っかかるが、この街が安全とはどういう根拠なのか。だが確かに、この街の近くに得度兵器は居ない。ガンジー達も遭遇経験はなかった。

「知りたいか?」

「ああ」

「教えてほしい。今後の街の方針にも関わる話だ」

「うーん……まだ、検証が完全には済んでいないということは念頭に置いて欲しい」

 そう前置きして、ノイラは続ける。その顔は心なしか嬉しそうであった。

 ちなみに、ガンジー達の作業の手は完全に止まっていた。

「1つ。単純に、街が勢力圏の外側にあること。北の得度兵器群は『防衛線』に篭っている」

「辺鄙な所まで手出しする余裕は無い、ってわけか」

「……この街を襲っても、確かに得るものは少ないだろう」

「そして、もう一つ。この街自体が、得度兵器が立ち入れない仕組みになっているらしい。うちの師匠あたりが細工したのか、それとものかは知らんがね」

「なんだと」

「おい、初耳だぞ」

「得度兵器は、元はといえば民生用の徳エネルギーで動くだけの作業機械だ。だからこそ、幾つもの安全装置セーフティがある。いや、あった、と言うべきか」

「安全装置……?」

 二人の脳裏で、タイプ・ミロクMk-Ⅱとの交戦の記憶が蘇る。それは『安全』という言葉からは程遠い。

「例えば、ドローンが人家に突っ込むと危ないだろう?だから、『入ってはいけない場所』には、『入れない』ようにプログラムされている。そういう地域に指定する電子タグが街の周りに仕掛けてあった」

「いつの間に調べたんだ……」

「あると予測していれば、簡単に見つけられる。そういうものだよ」

「何処まで効くのかは怪しいところだ」

「それでも、近付くには別の理由が必要、ということさ」

「後回しにされる、ってことか」

「この街の人間を解脱させるには、かなりの徳エネルギーが必要だろう?」

「違いない」

「無駄話はこの辺で終わりだ。続きは、作業が終わってからだな」

 話を切り上げ立ち去るノイラを、慌てて作業に戻りながら見送る二人。

「街は取り敢えず安全、ってことか?」

「しかし、何か用事があった、という様子ではないようだが」

「もしかして、話し相手が欲しかったんじゃねえだろうな……」

「うーむ……」

 相も変わらず、謎の多いノイラであった。

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