第99話 四章 最後の願い

■三


ラファエルはクララの流れ出る血の量に絶望しながらも、傷口を押さえた。


「クララッ。

 クララッ、しっかりしてよ……。」


問いかけにクララが意識を取り戻す。


恐らく自分の命が失われつつあることを感じながら、凍える吐息をもらす。


「撃たれたのか……ざまあねえな」


「すぐに手当を……」


「ああ、傷は気にしなくていい」


「そんな、だめだよ」


「いいんだ、私のは。

 内臓をやられてるから」


「……え?」


「自分でわかる。

 この傷じゃ、そう長くないってことだよ」


「まさかそんな」


ラファエルは狼狽えた。


助けを求めてエマを見遣るが、目を覚ましたエマはクララには近づこうとせず、ハンターの持ち物をひたすら漁っている。


「ハンターは?」


「死んだよ」


「エマが殺したのか?」


「違う。支配人(ミステル)が杖に銃を仕込んでたんだ」


「そいつはまた……姑息な手を。

 お前もエマも無事か?」


「うん、大丈夫だよ。

 ふたりとも何ともない」


ラファエルはこぼれてくる涙を袖で拭った。


クララの姿が滲んでまともに見られない。


「そんな顔をするな。

 私は満足してるんだ。

 お前みたいな純粋な心の持ち主に会えてね。

 エマを止めたとき、私は正直言って嬉しかったよ。

 復讐なんて後ろ向きで何にも生まれないから」


「そんな、僕は」


自分のせいでクララを命の危険に晒した。


許されて良いはずはなかった。


それに、支配人(ミステル)は――


「いいんだ。

 私は感謝している。

 エマを、あと出来れば他の子たちも救ってやって欲しい。

 お前なら出来るはずだ」


「クララさんがいなきゃ出来ないよ、そんなこと」


「できるさ。自信をもて。

 遠くから、私も応援するよ。

 だから最後に……」


「最後に?」


クララは顔を逸らし、細い声で言った。


「最後に……私を抱きしめてくれないか」

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