第98話 四章 quitの弾
「あ……っ」
ハンターの弾丸はわずかに外れてエマの耳元をかすめた。
衝撃にエマは気を失って倒れ込む。
支配人が放った弾丸はハンターの眉間を見事に貫いていた。
ハンターは物言わぬ骸となって崩れ落ちた。
「まったく世の中にはロクな奴がおらん。
おいラファエル、さっさとこっちへ来るんだ、縄を解け」
ラファエルは返事をしなかった。
抱きしめたクララの細い呼吸に耳を澄ます。
自分がうだうだと良心に苛まれていたせいで、クララは撃たれてしまった。
自分が止めなければ、アリスがさっさとハンターを撃ち殺し、この場を立ち去っていただろう。
だが自分は誰も助けることが出来ずに、それどこか邪魔までして、結局救いたかった命をも、目の前で失おうとしていた。
ハンターは死んだ。
クララはまだ生きている。
だが、ハンターは死んだ。
もしかしたら、クララも。
「聞いてるのか、おい」
支配人(ミステル)が足下にあったガラクタを蹴り上げた。
ラファエルの背中にあたる。
弾みでクララの体を強く押し、彼女が苦痛のうめきを上げた。
「ごめん」
ラファエルは自分が情けないと思った。
母親の死を隠して、自分を騙し続けた男が目の前にいるにもかかわらず、どうすることもできないとは。
善も悪もなかった。
自分は行動せねばならない、そう思うだけだった。
「さあ、縄をほどいてこいつらを片付ける準備をするんだ」
「よくも母さんを……」
ラファエルの目を見て、支配人(ミステル)は戦いた。
「待てっ。お前には見込みがある。
下積みばかりやらせてきたのも才覚を見込んだからこそだ。
お前を手放したくなくてついやってしまった。
そうだ、今度はもっと良い仕事をさせてやろう。
儂と一緒にサーカスを再興しようじゃないか。
金儲けの仕方を教えてやる」
支配人(ミステル)はラファエルを勧誘する。
ラファエルはエマが取り落とした拳銃に手を伸ばした。
すべてを失う前に、手を汚してでも守るべきものは守らないといけないのだという気持ちがラファエルを支配していた。
「おい、何のつもりだ……?」
縄はまだしっかりと結びつけられたままだ。
杖に仕込んだ銃に弾丸は残ってない。
ラファエルの銃を持つ手が震えた。
「やめろ、やめるんだおいっ」
夜更けのパリに最後の銃声が響いた。
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