四章
第87話 四章 異端者(デパエワール)
■一
深夜になると商業地であるハンターの事務所一帯はひっそりと静まりかえっていた。
事務所の窓からも明かりは見えない。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
クララが念を押す。
「物事に絶対なんてないわ。
だから約束はしない。
……けど、あなたも意外と臆病なのね」
「このっ」
事務所はアパートメントの三階にあった。
ラファエルたちは外階段を使って事務所の前に立つ。
鍵がかかっていた。
「ぶち破るのか?
力仕事は苦手ではないけどさ……」
気乗りしない風に腕をまくるクララを尻目に、エマは外套を脱ぎ捨てると羽を広げてふわりと浮き上がった。
そのまま建物の裏手に回る。
クララが疑問に思うより早く、扉の内側から鍵が開く音がした。
エマが中から出てくる。
「窓の鍵が開いてたから」
「わかるよそんなことっ」
若干苛々した様子でクララが中に入っていく。
部屋のなかは机と応接用の長椅子がふたつ。
書棚があるが硝子窓を見る限り中身はほとんど入っていなかった。
煙草の脂の匂いが充満している。
壁には依頼人だろうか、半獣人たちの目撃情報を書いたメモが貼り付けられていた。
それは国内の広範囲にわたっていた。
ハンターの行動範囲の広さを思い知らされる。
「煙草くせえ」
クララが顔をしかめた。
エマに机を任せて、ラファエルは開けた窓からの月明かりだけを頼りに書棚やクローゼットを次々と開いてみたものの、めぼしい情報は見つからなかった。
「エマさん、何かあった?」
エマは机の前でじっと佇んでいた。
視線の先には灰皿とピストル型のシガレットライターが置いてある。
エマは深呼吸をひとつして、そのライターに手を伸ばした。
「どうしたの?」
ラファエルの問いにエマは答える。
「ヴィジョンに丁度良いものを探しているの」
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