49.悪夢のような事実
《1998年12月20日 11:55AM エルハイト市内 第六検死研究所》
市内で“ヒューマノイド狩り”が始まるよりも、ほんの数分前のこと。
「…………………………………………馬鹿な」
ロベルト・シュルツは例の“大量死事件”のデータを見つめて、呆然としていた。
悪夢のような事実に、気づいてしまったからである。
今まで三度起こった、ヒューマノイドの同時多発死は、すべて。
彼がIV-11-01-MARIAの記憶を奪い取った前後の時間に起きている。
一回目。 十一月七日、午後五時二十四分。
二回目。 十一月十一日、午後二時五十六分。
三回目。 十一月十三日、午前〇時四十二分。
どうして、もっと早く気づかなかったのか。……いや。
関連するはずのない二つの出来事を、無理やり重ね合わせて考えろと言うほうが無理な話なのかもしれない。
「どういう、事だ……?」
血の気の失せた顔で、シュルツはそうつぶやくのがやっとだった。
シュルツがこの事実に気づいたのは、ぼんやりとした目でヒューマノイドたちの死亡地点の地図を眺めていたときだった。回数を増すごと規模が大きくなっていくこの大量死が、いつもこの第六検死研究所を中心にして発生しているように見えたのだ。
ヒューマノイドたちの潜伏場所に偏りがある挙句に、
異常死は、過去三回――
「いや。違う……四回だ」
“大量死”が起きる前に、予兆のように二体のヒューマノイドが死んだではないか。あれは、何日のことだった?
「十一月三日だ」
先月の
あの日は、当局捜査官のブラジウス・ベイカーが来た。奴は、街中で見つけたというヒューマノイドの死体を持って現れて……
――あの日、MARIAの身になにが起きた?
記憶の糸を、必死になってたぐり寄せる。……あの日は。
「あの日……MARIAは、初めて灼血感を訴えてきた」
あの日彼女は、初めてヒューマノイドの死体を見た。頭を割られ目玉をえぐられた惨死体を見て、彼女は『血が灼けつくように、苦しい』と言って取り乱した。
「灼血感……」
シュルツは、混乱しながら記憶を探り続けた。
――そうだ。MARIAの記憶を奪った過去三回……どのときも、彼女は灼血感に苦しんでいた。
彼女は、
「だがMARIAの“心臓”は、止まらなかった」
そしてMARIAの代わりのように、エルハイト市のヒューマノイドたちが“心臓”停止で死亡した。
そんな馬鹿なこと、あるものか。
それでは、まるであの女の仮説通りではないか。
大学の助教授から送られてきた手紙を握りしめ、シュルツは冷たい汗を流した。
「……波及性の、“心臓死”現象だと?」
大量死の中心にIV-11-01-MARIAというヒューマノイドがいることを、もし当局が勘づいたら……。
恐ろしい想像がシュルツの脳裏によぎった瞬間、
《緊急ニュースをお知らせします――》
いままでクラシック音楽を流し続けていたラジオ番組が、突然にニュースを報じ始めたのだ。
《本日十二時、ヴァセット州エルハイト市の一部地域で、連邦刑事庁ロボット危機管理局が“
悪夢のような知らせだった。
C/Fe検査――別名“ヒューマノイド狩り”。街を閉鎖ししらみつぶしにヒューマノイドを狩り獲っていく、当局の作戦だ。
シュルツの背筋が、凍りついた。
《C/Fe検査は今も執行中です。閉鎖エリアは、エルハイト市第五街区から第十一街区。各街区は検査完了後に順次開放される模様です。繰り返します。本日十二時、ヴァセット州エルハイト市の一部地域で、連邦刑事庁ロボット危機管理局が――》
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