第6話「後ろにいる!」


夜の学校というのは、どういう訳なのか薄気味悪い。小学生の時には「学校の怪談」なんてもので夜の学校の怪談話を見聞きしては、夜中ひとりにベッドの上でなぜかその話を思い出してしまっては夜中の学校を想像してしまってよく怯えていた。今頃もしかしたら教室やら理科室やら体育館には幽霊が出ているのかもしれないなぁ、とか。いや、そんなことを考えていたらもしかしたらその霊たちがどういう訳か自分の部屋にやって来てしまうのではないだろうか。そんなことあったら、イヤだなぁ。怖いなぁ。だなんて、考えていた。あれから十数年。二十歳寸前になって、今はそれなりに暗闇に対しては耐性みたいなのがついたように思ってはいたけれど、やはりこうして一人寂しく、誰もいない廊下を暗がりの中で歩くのは精神にくるものがあった。小学生の時に妄想の果てに怯えていたあの恐怖が蘇ってくる。



いざ、夜の学校に入ってみると、やはり、怖い。どうしてここまで不気味に見えてしまうのだろう。特に大学なんて教室が高校の時とか今までと比べてバカみたいに広いものだから、誰もいない教室を眺めているとただただ広いだけという事そのものが、空虚で、ほんの少し恐怖を抱いてしまう。……ああ、もう余計な考え事をするのはやめよう。とにかく今は、財布を見つけさえすれば、それでいい。それだけに集中していれば、きっと暗いロビーも、無人の教室も、無限に続いているように見えてしまう廊下だって、怖くなくなるはずだ。そうだ。そうしよう。……………。…………ごめん、やっぱ怖い。





―――と色々と思考を巡らせながら進んでいる、逆立ち君である。






おッ、なんだいなんだい?「"いままでのD-SHOOTERの話の中では珍しく真面目に始まってるじゃないか"、ダッ〒???」 ヘッ、ぉぃぉぃとっつぁん…………悪い冗談ぁ、よしてくれよぃ。……オレぁいつだって、『真面目』、だゼ?(ドュャ) ……まぁでも過去数話のうちの何場面かはふざけて書いたのは事実だ。実を言うと過半数はふざけて書いている。……それどころか、オレはこのD-SHOOTERを超真面目に書いた記憶が皆無だ。いやはや、申し訳ない。でもオレは【真面目】に【ふざけて】いるのだ。どこぞのアニメの台詞だかタイトルを借りて表現するならば、【まじめにふまじめ】とかいうヤツだ。でもさ、それはまぁおいといてさ、なんかこう、いつもと違って真面目風に文章書こうとするとさ、何かどこぞの小説にあるような感じの文章にならない?オレだけ?……てかたかが文章に「この文章は作家●●の文章っぽいですね~」とかって批評、するヤツ、いるのか????「あっ、この文章は村上春樹の小説を思わせますね~」みたいなこと言ったりするヤツとか。……まぁ批評するヤツはいるンでしょうネー。村上春樹ダネーとか、太宰治ダネーとか。司馬遼太郎みたいダネー、とかさ。はいはいはい。ぱいぱいのぱい。とりあえずお前は勤務先の忘年会でたまたま参加してきた事務員の服ン中に手ェ突っ込んでぱいぱい揉むセクハラ老人にでもなればいいヨ。うん。もしくは入水チャレンジで成功するか或いは一等賞をとれるかとれないかのギリギリラインを彷徨うような余生を過ごしてしまえばいいと思う。ええ。……そんな訳で、逆立ち君の続きを綴っていこうと思う。






……おやや、テキトーに屁理屈並べてグダグダしていたら、いつの間にか逆立ち君は財布を見つけていたようだ。逆立ち君は財布の中を確認した。お金、学生証、その他カード類……とりあえず、どれも抜かれてはいないことがわかった。(暗い部屋の中でよう確認できたなとか言うなし。)逆立ち君は、ひとまずホッとした。





さて、ここで話を序盤のテーマに一旦移すのだが、所謂「学校の怪談」といったジャンルはどういった点で恐怖を抱いてしまうのか。それは人によって考え方や恐怖対象となるものは違うだろうし、もしかしたら決まった定説みたいなのがあるのかもしれないが、私自身はそこまでホラーに造詣は深くないので、あるのかどうかは実際はわからない。




しかしここで持論をひけらかすとだ。恐らく「誰もいないはずの空間に、"何か"がいる。」という事だと思う。この"何か"というのも非常に重要なポイントだ。その"何か"の正体というのは、人間なのかもしれないし、あるいは……







―――逆立ち君は、妙な感覚を抱いた。まるで、自分の背後の、暗闇の中から、正体不明の"何か"が潜んでいて、そいつがこちらのことを、ジーーーーーっと睨みつけているような。





気のせいだろう、と、思い込む事にした。とにもかくにも財布は取り戻せたことだし、あとは帰り際に夕食を買っていこう。それにしても今日は何を食べよう。今月は貯金溜めておきたいから過ぎた出費は避けたいな。…………ありとあらゆる雑念で、気持ちを紛らわせようとしたが、そんな事では払拭する事はできなかった。絶対に、"何か"いる。そして、こちらを見ているのだ。





逆立ち君は、ほんの数時間前の、友人たちとの些細な会話を思い出した。―――「月の出る夜に、この大学のキャンパス内で謎の化物が出没するのだという。」―――時刻は、21時半。こんな時間に、ましてやこの状況で、背後で闇に隠れてこちらを見ている……いや、"狙っている"ヤツなんて、思い当たるのは、一つしかなかった。




逆立ち君は駆け足で教室の外へ出た。そしてすぐさま出口の方へ走った。でも、暗闇のせいで果てが見えない廊下を走り続けていても、一向に出口へ降りるための階段に辿り着かない。まるで、この廊下が本当に無限に続いているみたいに。彼の体力は、もう限界寸前に達していた。





「も、もうダメ……。」



逆立ち君はその場でへたれ込んでしまった。膝をつき、何なら両手も床につけて、ゼエゼエといっている。身体はもう汗まみれだ。


こちらを追いかけるような足音は聞こえてこない。―――だが、逆立ち君は感じていた。オレのことを狙う"何か"が、こちらに向かってきているのを。それは、何の音も立てずに、しかし凄い速さで、こちらへ迫ってきているのを。逃げたいのに、怯えと疲れで身体は震え上がっていて、思うように動くことが出来ない。





「や、やめろよォ……!! こっち来んなよぉ!!!!!!」







頭を覆って、体を丸めるように這いつくばった。だが、彼の言葉は実らず、すぐ側にまで、ヤツは来ていた。






突然、左肩に、何かヌメっとしたものにあたった。あたったというか、"嘗められた"という感じだ。―――彼は、悟った。自分を狙っていた"何か"の正体。そして、自身の運命を。










「(終ワタァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!)」










しかし、彼が恐怖のピークに達した時、突然、闇の奥から銃声が聞こえてきた。






暗闇から放たれた弾光は、まるで静寂を打ち破るかのように、後ろの"何か"に当たった。






弾をうけた"何か"は、奇声に近い大きな断末魔を上げ、地面にパタリと倒れた。






―――いったい、何が起こったのか。この状況を全く理解できなかった逆立ち君は、ひとまず頭を上げ、後ろを振り向いた。するとそこには、大きな一つ目の、舌がべらぼうに長い化物が仰向けの状態になっていた。後ろにいた"何か"の正体は、やはり、例の噂に出てきた化物そのものだったのだ。そのあまりの現実とは思えぬ姿に、逆立ち君は思わずギャアと叫び声をあげてしまった。脈打つスピードも速まっている中、何を思ったのか化物が受けた弾の痕を覗いた。弾の痕は額と思わしき箇所にあって、そこには赤文字で、『D』というアルファベットが刻まれていた。






「これは……もしやッ! D-SHOOTER!!!!」





逆立ち君は急に立ち上がり





「うぉぉぉおおおおおおお!!!!!ありがとD-SHOOTER!!!!!!!!!感激のあまりッオレの心もッD-SHOOTッ!!!!」






意味は分からないが、とりあえず自分のことを救ってくれたD-SHOOTERに感謝した。あと、約束は果たしたぜ。晃君。



急激に立ち上がったものだから、立ちくらみでまたしてもその場でへたれ込んでしまった。頭が重すぎて、なんだか一瞬目の前が真っ白になったような気もする。きっと、血が引いちゃったんだろうな。いきなり立っちゃったから。それに、化物に嘗められた左肩がやけに痛い。とりあえず、この場からはすぐに離れた方がいいだろうな。本当は証拠として撮影をしておきたかったけれども、左肩の痛みにちょっとだけ違和感がある。きっと、嘗めてしびれさせるタイプのものだったのだろう。ポ●モンでいう、『したでなめる』という技を受けてマヒ状態に陥った、みたいなさ。これは証拠なんかより早くシャワーでも浴びて痛みをどうにかした方がいいな。逆立ち君は、左肩をさすさすしながら、トボトボと帰っていった。








#









朝9時。午史たちは既に教室についていた。しかし、教室といっても、ただの教室ではない。というのも、今回の授業は学科も学科なんで、プログラミングにちなんだモノを取り扱うモノとなっている。そのため、午史たちはいつもの教室でなくパソコン室に居たのだ。




「まったくYO!1限から授業なんて!!!!センスねーYO!!!!」





ヒップホップ嶋田が韻の踏めてない下手くそなラップを披露した。1限に授業を開講するスケジュールより、まずお前のラップのセンスがない。





そんなこんなしてるうちに、教授がやってきた。





「はいそれでは授業を始めますんでね、受講者以外はパソコン室から退出をお願いいたしまーす。」





何となく気怠そうな感じ。やはり、プログラミングの分野を研究している教授は、どこかラフな雰囲気を持っている。






「……えっと、これって確か何を勉強すんだっけ?」





午史は仕方なく、右隣にいたヒップホップ嶋田に聞いた。





「え、お前シラバス見ないで授業とったの????え~いやお前さすがにそれマズいって。ただでさえ情報云々のアピールすげえ学科だってのに。」




韻を踏まないどころか、ラップもせずに率直にdisを入れてきた。……いや正確にはdisではないのだけれども、より一層腹が立ってきた。本来なら、逆立ち君と一緒に授業を受けるつもりだったのだが、彼はまだここには来ていない。さっそく寝坊してしまったのだろうか。まだ学期始まったばかりなのに……。仕方なく、午史は何とか嶋田に対する怒りを抑えつつ、改めて聞き直した。




「いやぁーまぁ昨日はいろいろ疲れちゃってさ(笑)覗くの忘れちゃってたんだよー。」




「ったくしゃあねェYO。これな、プログラミング言語を勉強する授業なンやで。いろいろプログラム組んで、何かつくるヤツなのよ。ほんで、向こうで座ってる教授がね、瀧田たきだ=ブック・"オカメル"……」





この一言で、教授はいきなり眼に怒りの光を放ち、瞬間移動のごとく嶋田の前に立ちはだかった。






「オ"ー"カメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェル!!!!!!!!!!!!!」






轟く雄叫びと共に、時速185kmは突破するであろう盛大な蹴りを入れた。嶋田は壁を突き抜け、そのままdisappearした。






「……Not, "オカメル"。」





煙が渦巻いている中、教授は再び席に戻った。





「……私の名前をちゃんと言えない者も、退出をお願いしまぁす。あ、さっきので席壊れちゃった人は違う席に移ってください。」





学生たちは皆、怖気ついた。早急に席に移る者もいれば、中には恐怖のあまり、教室から退出してしまう者もいた。彼らは教室から出たと同時に、何やかんや消えた。




午史は席を変え、そんでもって頭を抱えた。






「―――この教授もヤベェ奴なのかよ…………。」





午史は昨日と同じく、今後の大学生活を憂うことしか出来なかった。だが、それは他の数名の学生たちも、同じ気持ちになっていた。まるで、僕たちの明るいスクール・ライフのはずが、CrazyでPlasticな微笑みを浮かべるように、僕らの喉元に刃を突き立てているかのように。奇しくも、それは

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D-SHOOTER 黙考する『叫』 @mokkouken1

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