番外 五番街の待ち人 その一

 ヴィクターの初遠征、その帰り道で護衛となった女剣士ディアナ・アーベライン。

 彼女はアグアノスの酒場で、合流する前のヴィクターの話に耳を傾けていた。

 道中で聞いた内容と大差はない、しかし、話をしているヴィクターの横顔を見ているだけでも彼女は楽しめていた。

 同じ席に座っている運び屋のカーマインと、その護衛であるミランダが興味を持って聞き始めた事で、話の最中にディアナ、自分自身の名前が出てくると少しだけ頬が熱くなっていた。


「ねぇディアナ、ちょっといいかしら?」


 思い出話がディアナとヴィクターの合流した時の事になると、ミランダが割り込んできた。


「ん、どうかした?」

「このままヴィクターさんの話もいいんだけど、合流するまでの貴方の話も聞いてみたいの」

「えっ、いやーそれはちょっと……」

「それは、僕も気になります」


 断ろうとしたところに、ヴィクターが興味を示していた。


「ヴィクターみたいに何かあった訳でもないよ?」

「それでもです、酒場の人気者だったじゃないですか」


 人気者というよりは慰められていたと言うべきだと反論したいが、それは内容を話す事になる。

 アグアノスまでの道中ではその話題は振らなかった、揉めたり泣いたりと世話しなかったのもあるが、彼女にとって、待っていた期間中に再会できなければ笑えない話でもあったからだ。

 それを知っているのは本人だけだ、他の三人は聞けるなら聞きたいと視線を向けていた。


「……、どうしても聞きたい?」

「是非に」


 ヴィクターよりも、ミランダの方が乗り気だった。

 水を飲み、喉を潤して腹を決めた。

 正直、少し恥ずかしい話にもなる。

 顔を真っ赤にする覚悟で、ディアナは話し始めるのだった。



……



「今日はゆっくり休んでくださいね」

「え、宿はいいの?」

「僕はこのまま二十三番街へ向かいます、では」


 そう言ってヴェクターは歩いて行った。

 何か声をかけるべきか悩む時間すらなく、ヴィクターは視界の外へと姿を消した。


「行っちゃった……」


 貰った麻袋の中には五日間はそれなりの食事と寝床が確保できる程の金銭が入っていた。

 贅沢をしなければ更に長く過ごせるだろう。

 空は沈みかけている、それは今の彼女と心境が重なり、気分も沈んでいくのを感じていた。

 話し相手が居なければ口数は減り、短い道中での二人旅の事を思い出す。


「久々に、笑ったかも」


 ハリルトンは幸いにも治安は良い、宿で警戒しなくて済むのは助かると近くの安宿に入って行くのだった。

 宿の中で軽食を頼み、地図を広げる。

 ハリルトンの南部は未開圏、東部に戻りヤムニア商業同盟に再び行くのは勘弁だった。

 ディアナは商人から高い仲介料を取られ、ヤムニアからハリルトンに渡って来た。

 ハリルトン帝国なら仕事に困らないだろうと内情も知らずにやって来た彼女は、誰にも魔獣狩りの実力を必要とされず、どうしようか悩んでいた所にヴィクターと巡り会えたのは幸いだった。

 下手に動き回っても金を消費するだけなら大人しく五番街で彼を待てばいいと、今後の計画を立てていく。

 給仕の持ってきた食事に物足りなさを感じながら、ディアナは直ぐに動ける格好のまま、部屋で一晩過ごすのだった。




 翌日、朝方に目を覚ますと外の物音が気になった。

 窓を開けてみれば帝国兵が慌ただしく動き回っていた。

 身だしなみを軽く整え、特大剣と装備の手入れを済ませた後に宿の受付へと向かった。


「おはよう、なんかあったの?」

「ええ、二十三番砦で戦闘があったとか、負傷兵が運ばれているようでして……」


 それを聞いたディアナは直ぐに外へ出た。

 二十三番砦の方向から、移動してくる帝国兵の数はかなりの数だった。

 街の門番から事情を聞くと、砦を放棄してきたらしいとの話が出ていた。

 その為、仮拠点をこの街に設置し、中央からの援軍を待つのという事で、門の外は慌ただしく動く帝国兵で一杯だ。


「ねぇ、バンダナを巻いた耳の長い運び屋さん見た?」

「昨日の夕方通った者か、報告しか見てないから直接は見ていないんだが……、おい」


 他の門番もヴィクターを見ていないとの事だった。


「知り合いなのか?」

「うん……」

「そうか、一つ厳しい事を言うようだが……、運び屋で、生きているかどうかわからないのなら、死んでいると思った方が良いかもしれん」

「ッ!」

「生きていても確認するのが難しいのだぞ、仕方ないだろう」


 その通りだった、前線の兵士達であればある程そんな思いを味わってきたのか、門番は悲しそうな顔をしていた。


「すまない、だが……生きているかもしれないと妙な期待をさせて、死んでいた時に私は詫びる事が出来ない」

「……、ごめんなさい」

 他の門番も話を聞いていたのか、皆暗い表情であった。

「なんだなんだ、戦争で誰かが常に死ぬ、今更辛気臭くしてどうするってんだ」


 突如陽気な声が聞こえてきたと皆が振り向くと、ホビット族の男が歩いてきた。

 堂々とした立ち振る舞いは小さな彼を少しだけ大きく見せる、悪巧みが上手そうな雰囲気だった。


「これは、エスビョルン殿」

「どちらさま?」

「商人さ、お嬢さん」


 巻き煙草に火をつけ、一服し始めた商人ことエスビョルンは負傷兵や帝国兵等一切気にせず手続きを済ませていく。


「エスビョルン殿、エルフの運び屋は見かけなかっただろうか?」

「エルフの? そんな珍しいのは見かけないねぇ」

「実は、二十三番砦に向かった後、こちらを通っていないのでな」


 エスビョルンは不機嫌そうに辺りを見渡すと、何か納得したような表情になっていた。


「この数の帝国兵……、成程、フェルの旦那の言うとおりだな」

「旦那?」

「あぁこっちの話だ、その運び屋がエルフなら心配はねぇ、もし逃げ遅れてても森に行っただろうさ、南の森の竜人族にはエルフの友が居る、知っているだろう?」


 それを聞いたディアナは、少しだけ笑顔になっていた。


「お嬢さん、期待すんなよ、死んでいても不思議じゃないのが戦場だろうが、そんなでっかい得物持ち歩いている癖にわからないなんて言わないでくれよ」

「いいでしょ、期待して損するのは私だけなんだし」

「まぁな……、で、ここで待つのか?」

「いいえ、五番街に向かう予定よ、落ち合うならその街って決めてるの」

「そうかい、じゃあ護衛任せてもいいか」

 急に何を言い出すのと、ディアナは言いかけて飲み込んだ。

「面倒事に巻き込まれた時の保険だ、どうせ護衛を頼むなら美人がいい」

「あのねぇ……」

「なんだ、金なら払うぞ?」

「……、五番街までよ」

「勿論だ、馬車があるんだからな」


 門番に別れを告げ、ディアナとエスビョルンは歩き出す、エスビョルンは二十二番街には用が無いのか、すぐに街道へ向かっていた。


「補給とかはいいの?」

「ああ、ここは直ぐに慌ただしくなるだろうからな、ゴタゴタに巻き込まれるのは御免だ」


 嫌な相手かどうかはわからないが五番街までの話し相手は出来たと、ディアナは歩き出す。

 ヴィクターの事は心配だがとにかく信じるしかないと、気合を入れる。



……



「で、お嬢さんの名前は?」


 街を出てすぐにエスビョルンは話し掛けて来た。

 道中が退屈で長い事は知っている、少しでも仲良くなった方がいいとディアナも肩の力を抜いていた。


「ディアナよ、おじちゃん」

「おじちゃんって……、まぁいいけどよ」


 結構な歳を重ねているのか、嫌味とは思われなかったようだ。


「おにいさんって呼ばれる歳でもないんでしょ」

「だな、結構長い事行商人やってる」


 彼よりも目立つ大きな鞄、個人で取引する程度しか仕入れないようだった。 


「付き合いの長い護衛とかいないの?」

「いないね、無駄な金だ」

「もしかしてケチな人?」

「商人だぞ、当然だ」


 装備や鞄の傷から長く愛用しているのがわかる、使える物は使い潰れるまで使用するのだろう。


「お嬢さんは……、冒険者だな?」

「まぁね」

「ハリルトンじゃ仕事がねぇだろ、知らなかったのか?」

「そうよ、だから五番街に向かうんだけどね」

「あぁ、アグアノス方面なら冒険者如きでも仕事があるからな」

「如きって……」


 冒険者は地方によって扱いがかなり変わっていた。

 それなりに長く旅をしたディアナだからこそ、それも良くわかる。


「常に人手不足の所にでも行くんだな、安定した文明圏や戦争中の圏内で仕事なんぞある訳もない……、組合もないんだからな」


 商人、傭兵、運び屋、狩人といった街の外に出て仕事する者や、他の文明圏に渡る者に対し信用の証となるのは組合員として活動した記録だ。

 他の街で仕事するには、各文明圏に存在する組合の繋がりで信用を暫定的に得る事が出来る。

 繋がりが持てない冒険者は、どうしても『放浪者』という認識が強くなってしまう。

 そもそも個人で出来る仕事というのは限りがある。

魔族との戦争や、魔獣の大討伐があったとしても、冒険者個人が取り上げられるのはまず有り得ない。

 個人が集団に凌駕する才能は、『魔法使い』でもない限り不可能だろう。


「何処かの組合か組織に所属する方が賢いってもんだ、死にたいなら別だが?」

「そういうんじゃないけどね……、その場しのぎなのもわかってるけど……、傭兵は駄目だったの」

「人殺しの才はなかったか、良い事だ」


 盗賊にもなれんからなと、エスビョルンは笑っていた。


「おじちゃんは商人だし、組合に所属してるんでしょ?」

「いいや、個人だ」

「さっき言ってた事とは違うのね」

「俺はこういう生き方が好きでね、里の商売しかせんのよ」

「売れるの?」

「ああ、品数は多くないが里の工芸品は出来がいい、それを売って里に色々持ち帰るんだよ」


 そういう事かと、ディアナは一人納得する。

 ケチくさいのは、里以外で商売したくないのだろうと。


「ところでお嬢さん」

「なに?」

「もうちょっとゆっくり歩かないか?」

 ホビット族との身長差で歩幅に若干の違いがある事に気づくのは、それからしばらく歩いた後だった。




 十九番街で一休み、そう思っていたディアナだったがエスビョルンは宿に向かっていた。


「あれ、一泊?」

「疲れたからの、二十二番街で休む予定だったんだが」


 ふと、ヴィクターの事が頭を過る。

 丁度、同室で寝たのもこの十九番街だ。


「お嬢さんも休んだ方が良い、護衛の宿と飯代も出そう」

「いいの?」

「贔屓にしている宿がある、面子の為だ」


 ならば言葉に甘えてと、まだ日が高い内に宿へと入って行く。

 すると、一回の酒場の店員が駆け寄ってくるのだった。


「エスおじさんじゃない、今日は泊まり?」

「ああ、混む前に食事、その後すぐ休む」


 元気の良い町娘だった。

 ディアナよりも若く、家業の手伝いといった所だろうと見ていたら目が合っていた。


「護衛さんはどうする?」

「私もそれで」

「わかりました!」


 贔屓と言うだけあって、町娘とエスビョルンは仲良く話をしている。

 この宿は金庫室、厳重な倉庫があるとの事で、預ける事が可能だという。

 警備兵も雇っており、預けた物を記録する帳面もあった。

 信用で成り立っている宿であり、安心して酔い潰れても品物を無くす事は無いだろう。


「護衛さんの剣はどうします?」

「ああこれね、どうしようかな……」


 腰にグラディウス、背中には愛剣である特大剣ツヴァイヘンダ―。


「倉庫に置けるのかな?」

「お店で振り回す事はないと思いますが、用心のため腰の剣だけでもよろしいかと」


 遠回しに、店で何があっても振り回すなと、そう言われている気がしてならない。


「じゃあ直接倉庫に私が、貴方じゃ多分持ち上げられないでしょ?」

「では案内します」


 移動しようとした所に、エスビョルンから声をかけられた。


「部屋は俺がとっておくから、預けたらテーブルで待ってな」

「はいはい」


 倉庫前には屈強な警備兵が二人居た、元傭兵なのか、帝国兵なのかは不明だが古傷が腕に残っている。


「これ、預けられます?」

「大きいですね、ですがご安心を……、槍などを預ける場所もありますから」


 物腰は驚くほど丁寧だった。

 古強者と呼べばいいのか、安心して任せられるような雰囲気がある。


「良い得物だ……、こ、これは!」


 受け取った警備兵が驚愕の表情を浮かべていた。

 刀身の根元には、リカッソと呼ばれる手で持てる部分が存在する。

 その部分に刻まれた刻印に目を奪われていた。


「ま、まさか、『霧の谷工房』の一品です、か?」

「知っているんです?」

「現物を見るのは初めてですが、刻印は教会の資料で見ました……、これが上位精霊製法の剣ですか」


 警備兵は興奮するのを押えられないといった感じだった。

 ハリルトン帝国は、バスティア神聖国との繋がりが出来たおかげで精霊製法が普及し、現在までに強力な武具が生産されている。

 騎士団や傭兵の意見を取り入れ、各工房では様々な試作品も存在していた。

 戦争も続いていた事もあり、集団戦が想定された武具の完成度は高く、それを目当てにする顧客が存在する程だ。

 大きな工房の職人の大半はバスティア出身というのもあり、製法に疑いは無い。

 そんなハリルトンでも、上位精霊製法は稀だ。

 単純に単価が高いというのもあるが、扱える鍛冶師が少ないのだ。


「旅は、かなり長いのでは? 霧の谷工房の一品は遠すぎてハリルトンでは知らない者も多いですし」

「二年くらい前かな、色々あったんだ……」

 そんな会話をしていると、町娘が興味津々で覗いてきた。

「気になる?」

「あ、すいません、凄い物なんだなぁって……」

「私も言われるまでそんな感じだったよ、使っててやっと実感したくらい」


 この剣の事になると様々な事があったが、今は頭の片隅へ追いやった。


「この倉庫内で最も高価な一品になるでしょうね、さぞ武勇伝も多いのでは?」

「あ~、あんまり、話したくないかな?」

「わかりました、踏み込んだ質問でしたね」

「ごめんね」


 苦笑いしつつ、倉庫へ仕舞われる様子を眺めていた。

 帳面に書き込んだ後に、案内されたテーブルで一息つく。


「盛り上がっていたな?」


 声をかけながらエスビョルンはテーブルに部屋の鍵を置き、椅子へと座る。


「武器大好きな人だったみたい」

「良い剣だとは思ったが、そんなに凄いのか?」

「一応ね、上位精霊製法だし」

「……、そんな気軽に言う代物ではないぞ?」

「でも銘無しよ、工房の刻印だけは許されたけど」

「ま、踏み込んだ事は聞かんがね……、俺も武勇伝が気になるが、話してはくれんだろう?」

「生き残るためにしか剣を使ってないから、自慢出来るモノも無くて」


 売り込みに魔獣との戦いは話すが、それ以外は語りたくない。


「傭兵は駄目っていう程だからな、ま、言いたくない事も多いか」

「そういう事……、ところで明日は朝早いの?」

「急がんから安心して寝るといい、ここのベッドは寝心地が良いからな」

「じゃ、のんびりさせてもらうわ」


 ふと、ヴィクターとのやり取りを思い出すと、また寝付けないんだろうなと溜息が漏れた。

 宿に問題がないのは素晴らしい事なのだが、安心して寝むれるかというのはまた別だ。

 大きな荷物は預けてしまい、また取りに行くのは面倒でもある。


「……」

「なんだ、難しい顔でもして」

「えっ? いや、なんでもないわよ」

「例のエルフの事か? 戻ってこないとかいう」

「べ、別に、そんなんじゃ……」

「そんなに親しい奴なのか、そのエルフっていうのは?」


 ディアナは、エスビョルンへ知り合った経緯を話した。

 話していると、知り合って間もない仲であるという事を再認識する事になるが、それでも忘れ難い存在であった。

 同室で寝る事になっても嫌にならなかった事や、道中の旅が妙に楽しかった事。

 仕事の話をするのであれば、十二番街で知り合った後に、五番街へ向かって護衛の仕事を探すことだって考えられた。

 それでも彼、ヴィクターに食い下がって離れなかったのだ。


「惚れやすいのか、お嬢さんは?」

「そういうのじゃない」

「ホントか?」

「多分だけどさ、同じ所が辛い人……、だったのかも」


 一人旅は不安と、危険の連続だった。

 どうしてあれほどまでにヴィクターを信頼出来たのかは、彼と同室で一晩過ごした結果だろう。

 よく考えれば、傷の舐めあいとも言えたのかもしれない。

 護衛の無い運び屋程、命を落としやすい。

 故に他人との関係を最低限にする事も多い、それはディアナも同じであった。

 あの寝る前のやり取りで、彼もまた寂しがり屋であると、そう確信していた。

 なんだかんだと笑顔でお喋りに付き合ってくれた事、ふと、彼なら許してくれるかもしれないと寝ついた後に床に並んだ事。

 起きていたら抱き着いてしまった事にはさすがに驚いたが、彼もまた、本気で離そうとはせず、しばらくそのままだった事。

 別れ際の態度では、彼も名残惜しそうな顔であった事も含め、同じ傷を持っていたのかもしれない。


「ま、つまりは相棒候補って事でもあり、雇い主になって欲しかったと」

「そうね、そういう事かも」

「冒険者に好かれるのも、運がねぇな」

「酷い言い方ね」

「実力のある冒険者なんぞ訳ありに決まっている、剣も一流、技に関しても魔獣と『一人で』戦えると……、そこらの傭兵より余程強い、一人で旅が出来ている事も含め、見た目に騙されがちになるが、お嬢さんは相当な手練れだろう?」

「そうなの?」

「あぁそうだとも、俺はハッキリ聞こえたぞ……、二年とな」

「それが?」

「一人で一ヵ所に留まらず、この世の中二年も『冒険者』として旅してきたなら相当なモン、いや尋常ではない、その肌も含め傷も少ないんだからな」

「……」

「お嬢さん……、アンタ何者だ? だたの旅人が、どうやって『霧の谷工房』から武器が買えるんだ、金持ちには見えんぞ」


 エスビョルンの表情は真剣そのものだった。

 だが、ディアナはその問いには一つの答えしか用意出来ない。


「貴方が言った通り、私は放浪者よ、過去どんな事があったとしてもね」


 食事は部屋で取ると、ディアナは席から立ちあがった。


「おじちゃん、貴方の仕事はする、だけど質問には答えられないわ」

「そうかい」

「ごめんね」


 他の人と、ヴィクターの違いはこれだ。

 彼は、詮索しないのだから。



……



 ディアナは、エスビョルンとの会話の事は話さず、ヴィクター達への一旦話をやめた。

 水で唇の乾きを癒し、続きをどう話そうかと考える。


「特に珍しい事もないんだよ、ホント」

「エスビョルン、そうか、彼が噂の商人なんですね」

「知ってるの?」

「実は、道中にケチなホビット族の話はよく聞いたんです、ハリルトン内ではかなりの有名人みたいですよ」


 会ってみたかったなと、ヴィクターは呟いていた。

 そうだ、ならば彼に関する話をすればいいとディアナは思いつく。


「ケチ、そうね、確かにアレは有名になるかも」

「何かあったのです?」

「まぁね」


 一泊した次の日に見たモノ。

 それを話せば『ケチ』で有名になれるのも納得だと、ディアナは悪い顔をしながらしゃべり始めたのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る