概要
泣く場面で、私は笑った。「では、引き継ぎを始めましょうか」
目を開けると、伯爵家の玄関ホールに立っていた。前世で商店街の洋品店を一人で回していた四十五歳の私は、三年間夫に放っておかれた伯爵夫人リーゼになっていた。三年ぶりに帰った夫オスカーは、若い娘ミアの手を握り「今日から彼女がこの家の女主人だ」と告げる。この三年、家計簿をつけ、種麦を手配し、使用人二十三人の給金を払ってきたのはリーゼだ。泣いてすがる代わりに、私は店で覚えた笑顔で三日間の引き継ぎを申し出る。だがミアは数字が読めなかった。種麦を納めるローデン商会との取引では、夫が値切ったせいで値が倍に跳ね上がる。応接間の扉の前で、私は選ぶ。自分が入るのか、この子を椅子に座らせるのか。
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