概要
壁の向こうに聞かせるための夜が、壁の向こうを要らなくした。
幼馴染の柏木澄香(三十)が、四年付き合った男に捨てられて半年。彼女が選んだ新しい部屋は、その元彼の隣の部屋だった。
引っ越しの手伝いに呼ばれた俺、水瀬遼(三十)は、段ボールを運び終えたあとで、ベッドの頭側の壁を指さした彼女に言われる。「土曜の夜、あの人はひとりで家にいる。壁の向こうに、聞かせたいの。相手は、あんたがいい」
榊は、昔から俺を一番嫌っていた男だ。俺は十五年、彼女に何も言えなかった男だ。断る理由は、なかった。
その夜から、毎週土曜の二十一時、俺は壁側のベッドに呼ばれる。壁の向こうでは咳払いが増え、テレビの音が上がり、やがて壁が叩かれる。
元彼が引っ越すまで、土曜はあと十回。壁の向こうがいなくなった土曜に、彼女が俺を呼ぶのかどうか。それだけが、俺には分からなかった。
壁
引っ越しの手伝いに呼ばれた俺、水瀬遼(三十)は、段ボールを運び終えたあとで、ベッドの頭側の壁を指さした彼女に言われる。「土曜の夜、あの人はひとりで家にいる。壁の向こうに、聞かせたいの。相手は、あんたがいい」
榊は、昔から俺を一番嫌っていた男だ。俺は十五年、彼女に何も言えなかった男だ。断る理由は、なかった。
その夜から、毎週土曜の二十一時、俺は壁側のベッドに呼ばれる。壁の向こうでは咳払いが増え、テレビの音が上がり、やがて壁が叩かれる。
元彼が引っ越すまで、土曜はあと十回。壁の向こうがいなくなった土曜に、彼女が俺を呼ぶのかどうか。それだけが、俺には分からなかった。
壁
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