概要
妻の夢に全てを捧げ、初恋の影に両目を抉られた男
結婚記念日の朝、美沙から急に連絡が入った。投資家との打ち合わせが入ったから残業になる、予約していた映画には行けないという。
一人で街を歩き回ったものの、誰もいない家へ早く帰る気にはなれなかった。水鷺駅近くの劇場街を通りかかったとき、小さな劇場でお笑いライブの当日券が残っているのを見つけ、なんとなく一枚買った。
ライブの途中、ステージ上の芸人が客席とのやり取りを始めた。
「今日、恋人や旦那さんに内緒で来てる人います? 正直に手を挙げてくれたら、限定グッズ差し上げますよ」
最前列から、すぐに手が上がった。
「はい」
聞き間違えるはずのない声だった。顔を上げると、そこにいたのは妻の榎本美沙だった。
その隣には、知らない男が座っていた。背が高く、左の頬に薄い傷跡がある。美
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