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気がつけば目の前に小花紋様を散らす巨大茶碗が迫っていた。
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確か、あれは営業の帰りだった。
車やらバスやらがひっきりなしに行き交う騒々しい幹線道路。寒風吹きすさぶ歩道をすたすたと歩きながら、左手に電話、右手に資料の束を抱えた白川センパイが人目もはばからない大声でクライアントにアポイントの電話を入れている間。
俺は、今日も食べ損ねた昼飯のことを考えていた。今月のノルマをこなし終わるまで、しばらくゆっくり昼飯タイムを味わうのはムリだな……
「真田くん」
白川センパイのピリピリと冴えた声がひびく。
白川センパイは灰色のかっちりしたスーツ、ダークグレーのパンプスに女性には似つかわしくないぐらい分厚いビジネスバッグをひっかけている。タイトなスカートの下は、思わず鼻の下をでれーんと伸ばしそうになるなめらかなタイツのふくらはぎ。
「何見てるのよ」
「いえ、地面に一億円の宝くじでも落ちてないかなあって」
「落ちてるわけないでしょ」
「分かりませんよ」
「落ちてたら先にわたしが拾ってるから」
そうなのだ。白川センパイは社内でも有名な超美人なのに、ドがつくほどの金の亡者なのである。せっかく営業所どころか支社でも成績がトップクラスだというのにその理由が金の亡者とは……。
まあ、そのへんは個人の自由なのでかまわないとしても、問題は、センパイが、飯を食う時間さえ惜しんでバリバリ働く、いわゆるセルフブラック社畜であることだった。
「今なんか言った?」
「何も言ってません」
地獄耳か。おちおち内心も吐露できない。
「真田くんは次どこに行きたい?」
やはりそうきたか。
だが、次の瞬間。
突如として、心臓がつぶれそうな地響きが足元の地面を跳ね上げた。数十枚ものガラスが砕けるような音、金属のひしゃげる音、瓦礫の崩れ落ちる音。何かの焼け焦げる臭い。
まさか事故か、と息を呑み、振り返る。
後方の視界はたなびく土煙に覆われていた。
重金属の空震が鼓膜にこびりついて、まだ聴覚を麻痺させている。
その土煙の奥に、何かがあった。
奇妙な形の影が、ゆらゆらと。凪いだ水面に映る獣のように動き出す。
「真田くん。何、あれ」
妙に落ち着き払った声で白川センパイがつぶやく。
「分かりません」
身長(と言っていいのか)5メートル。お茶碗としての直径も同じぐらいはあるだろう。筋肉ムキムキマッチョなスネ毛の足をガニ股でシャカシャカ動かしながら、これまたマッチョな両手に箸を一本ずつ持って、自分自身、すなわち茶碗のフチをチンチン無作法に鳴らしながら、俄然走り寄ってくる。
「冷《ピヤ》ーーーーッ!!」
放つ奇声も忌々しい限りだ。
「何かしら、あれは」
「歯ぁ食いしばれえええええ!!!」
「このカードは」
伝説のレシピカードバトルがいま、始まる……
更新するだと途中なのに保存するしかなくて草w
これをスマートニュース用にしよう。
美人で金の亡者の白川センパイと新人営業マン真田君が伝説のレシピカードを手に、襲い来る地獄食材と戦う話。
白川センパイの手料理は地獄味です。
戦う家庭菜園スマートニュース版。