あけましておめでとうございます。水涸木犀です🌾
本年もよろしくお願いします。
さて、現在カクヨムコン11に参加している『ケツァルの預言者』について、歴史ものという関係上裏話・解説が必要な部分がいくつかあります。
web小説として、本編は背景事情を詳しく知らなくても読めるよう心がけております。しかし、テオティワカンに関する知識がある方や関心のある方向けに、近況ノートでそうした小話を載せていくつもりです。
◆第1回:テオティワカンの3つのピラミッドの呼び方について
大都市テオティワカンの遺跡としては、3つのピラミッド及びそれらを繋ぐ大通りが有名です。それぞれ、各種研究資料や観光ガイドでは
①羽毛の蛇のピラミッド
②太陽のピラミッド
③月のピラミッド
④死者の大通り
と記載されています(※丸数字は下記図と対応しています)。
しかし、これらの呼称はテオティワカン滅亡後、アステカの民が同都市を「再発見」した際につけた名称です。アステカの民たちはテオティワカンに神々が住んでいたと信じ、己の宗教観に合わせる形で「太陽」「月」「羽毛の蛇」という名づけをしているのです。また、この大通り沿いに大量の死体があったことから、「死者の大通り」と名付けたようです。
となると、実際にテオティワカンに住んでいた人々は、これらの名称で呼んでいなかった可能性が高いです。
まだ近しい名称だった可能性があるのは、
・太陽のピラミッド
・羽毛の蛇のピラミッド
です。
まず、太陽のピラミッドは、日の出と日没の向きを計算して作られています。年に二回、日没の際太陽が正面に来る/年に二回、日の出の際太陽が真後ろに来る角度で設計されているのです。ここから、このピラミッドは太陽を意識して建てられたことはほぼ確実です。となると、建物名称に「太陽の~」と付くことに違和感はあまりありません。
また、「羽毛の蛇のピラミッド」はケツァルコアトル(羽毛の蛇)の像が各所にあしらわれています。住宅地に最も近い場所に建っていたことからも、庶民たちの信仰を集めるケツァルコアトル(羽毛の蛇)を祀る場所だった可能性はありそうです。
ということで、この二つのピラミッドはそれぞれの名前を残しつつ、
①羽毛の蛇のピラミッド
ナヒルクッフ・ケツァルコアトル(najilk'uj・Quetzalcōātl )[ユカテカ語&トルテカ語]
「ケツァルコアトルの神殿」の意味。戦争捕虜=外国人を生け贄に捧げるアルター・ムール(後述)と違い、こちらではテオティワカンの住民が生け贄に捧げられている。ケツァルコアトルを信仰するテオティワカンの人々にとって、信仰のよりどころである。
②太陽のピラミッド
パラシオ・ティレノーン(palacio・ti' le k'iino')[ユカテコ語]
「太陽の宮殿」の意味。王族が住み、貴族が働く場所。ピラミッドの頂上に王族の執務室がある。
という設定にしています。
問題となるのは、まず「③月のピラミッド」です。こちらはアステカの人々が太陽と月の創世神話にピラミッドを重ね合わせた結果、太陽のピラミッドと対比させる意味で名づけられたものと思われます。しかし、ピラミッドの位置関係からして、両者はあまり関係がなかったのではないかというのが私の推測です。
太陽のピラミッドと同様、建物の特徴を考えるのであれば、「月のピラミッド」は背後にある山と重なるように設計されています。また、発掘されている品々は王権を表す翡翠や捕虜の骨など、「異国の生け贄」を想起させるものが多いのが特徴です(※翡翠はテオティワカンでは採れないので、外来のものである可能性が高い)。
ということで、本作では「月のピラミッド」を「自然信仰に基づく祭壇で、戦争の際に戦士を集めたり、捕らえた捕虜を生け贄として神々に捧げたりするための儀式を行っていた場所」と解釈しました。名称は下記のとおりです。
③月のピラミッド
アルター・ムール(altar・muul)[ユカテコ語]
「山の祭壇」の意味。戦争捕虜を生け贄にしたり、雨乞いの儀式をしたり、豊作を祈ったりといった儀式の場に使われる。また、アルター・ムール前の広場では戦いに向かう戦士が集められたり、各種儀式を見る人々が集ったりする。
また、「④死者の大通り」も、王族や貴族の居住地の前をはしる大通りとしてふさわしい名称とはいいがたいと感じます。まさかテオティワカン存続期間中も常に屍累々だったとは考えにくいですし。
一説によると、この通りには傾斜がつけられており、①羽毛の蛇のピラミッドの下部に水が抜ける作りになっていたそうです。つまり、雨季にはこの通りは水で満たされていた可能性があります。そこから転じて、下記名称にしました。
④死者の大通り
ブレバール・ハ(bulevar ja)[ユカテカ語]
ユカテコ語で「水の大通り」という意味。太陽の宮殿と山の祭壇を繋ぐ大通りで、水が張られている。水を得る手段が限られているテオティワカンにおいて、多くの水がある場所は王権の象徴となっていた。しかし近年では旱魃の影響で、ごく短い雨期をのぞいて通りは干上がっている。
王族や貴族の邸宅のほとんどは、この通り沿いに存在する。
それぞれのピラミッドの役割や名称については諸説ありますので、今後新たな発見がなされることが楽しみです。
『ケツァルの預言者』
――滅びゆく大都市と、隠された双子の運命が交わる歴史ファンタジー
https://kakuyomu.jp/works/822139840721939357