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【読書ノート5】時間移民~劉慈欣短編集2 ★★ネタバレ注意★★

劉慈欣著 大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳

個人的には今最も注目しているSF作家の最新短編集。
「三体」の登場人物を主人公に据えたり(ただし別人格)と、ファンにはたまらない趣向もあったが、それを抜きにしても、
13の作品全てが独創的で想像力をかきたてる秀作揃いだったのが素晴らしい。どれひとつとして「今イチだなぁ」という話がなかった。安価な本ではないが、まったく損をした感じがしない。
著者の力量の確かさを改めて痛感させられた。

表題の短編は、「三体」にもあった冷凍睡眠による時間移動。それが「移民」になるという奇抜な展開は、私は到底思いつかなかった。冷凍睡眠という技術・手法は、最終話の「フィールズ・オブ・ゴールド」でも取り上げられるが、全く違った展開をみせる。著者の思索力の深さには驚嘆するばかりだ。
「全帯域電波妨害」と「天使時代」は、テーマこそ違うが激しい戦闘シーンの描写力が凄い。このジャンルの作家になったとしても、かなりの作品を書くのではないかと思える。
「鏡」は本格ミステリーの手法で前半部分を描いている。ちょっとトーンがいつもと違うなと思っていたら、中盤から一気にSF的な展開になだれ込む。その鮮やかな手法には完全にやられた。
「夢の海」や「歓喜の歌」では、地球外生命体が登場する。しかし、その姿は想像を全く超越していて、SFならではの世界観に満ちていた。いずれも地球人類の無力さが際立つ流れは、「三体」シリーズに通じるものがある。
このほか、マルチバース宇宙論や量子論、素粒子物理学の最新研究成果を物語の重要な構成要素としている話もある。どれも設定、構成が緻密であるのは当然として、「読ませる」ストーリーに仕上がっているのはさすが。一字一句を見逃せないほどの完成度には恐れ入る。
劉氏の作品を読むと、自分の作品がなんともスカスカで底の浅い物語に思えてきて、自己嫌悪に陥るが、かといって執筆意欲が減退する訳ではない。読んで、打ちのめされると、なぜか無性に物語を書きたくなるから不思議だ。

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