男はそこに居た。
周りは森で、燃えていた。葉の一枚一枚が風で揺れるたびに燃え移っていって、灰が地べたに落とすのみ。乾燥した空気が、余計に炎の勢いを助長させている。
男は地面に座った。
大勢の死骸が転がっている。中身がうっかりはみ出していて、赤く砂利を濡らすところもある。
その中には、友人とも呼べるナニカも転がっていた。
男の故郷は一瞬でなくなってしまった。
もう親が親の名を借りることもなく、周りが干渉することもない。男を痛め付け、梁につるす者も、全て炎と共になくなった。友人が男を庇い、自らの痛みのように苦しむことも、もう見ることはない。
男は自由だった。
男はきっと、嬉しかったのかもしれない。自分の人生を歩めることが、しがらみから解き放たれたことが。
男はそろそろと立ち上がって、一点へ近づいていく。
また立ち止まり、静かに座る。
欠片を拾った。迷いもなく口に放り投げた。味はしない、いや、分からない。生きるために食べるしかない。
───なぁ、友だった骨は美味しいか?
END