この記事はギガントアーム・スズカゼ第七話の書き上がった最新分を掲載しているものです。
これまでの話は下記リンクから読めます。
https://kakuyomu.jp/works/16817139556247117561◆ ◆ ◆
そして現在のトーリス・ウォルトフは、その静謐を守る立場にある。
それが一体何を意味しているのか、トーリスには理解できない。ただ納得と、高揚と、使命感だけがある。
それは彼にとって、とても幸福で。
とてもとても、幸福すぎる事であった。
疑問を挟む余地なぞ、微塵もないくらいに。
そんな幸福なトーリス・ウォルトフは、窓際から通信用大型コンソールの前へ移動する。腰を下ろす。
つきっぱなしのモニタは、先程メールを出した時と何も変化がない。じれったい話だ。データの提出を求めたのはそちらだろうに。
腕を組み、トーリスは周囲を見回す。辺りに浮かんでいるのは、コンソールと連動する幾枚ものホロモニタ。魔力によって宙を回遊する四角形の群れ。
写真、動画、解析データ。形式は様々だが、四角形に映る対象は全て同じだ。
トーリスの指揮下にあったグラウカ部隊、それを二度に渡って退けたギガントアーム・ランバ。今はスズカゼとかいう異界の名をつけられたアンカータイプの調査が、今のトーリスの仕事であった。
部下はいない。トーリスが今いる司令塔に、彼以外の人影はひとつもない。のみならず、そもそも国境警備基地内に人の姿が全くない。居るのはただ一人、コンソール前に座るトーリス・ウォルトフのみ。
この基地の大部分を占拠しているのは、耳の痛くなるような静寂と。
凡そ常軌を逸した、破壊の痕跡のみである。
そう、破壊だ。基地の西半分は、まずクレーター状の大穴にごっそりと抉られて灰色の地面を晒している。更にそこから同心円状に破壊された施設残骸が横たわっていて、その最外周部にトーリスの今いる司令塔が立っている。そしてその司令塔を境として、東半分は奇麗に形が残っている。破壊にしても、異様なやり口であった。
この破壊は、昨日や一昨日に行われたものではない。およそ一年前、エルガディア魔導国から放たれたランバの同型機――アンカータイプによる攻撃の痕跡なのだ。