この記事はギガントアーム・スズカゼ第七話の書き上がった最新分を掲載しているものです。
これまでの話は下記リンクから読めます。
https://kakuyomu.jp/works/16817139556247117561◆ ◆ ◆
そうした風景を司令塔から見やるトーリス・ウォルトフは今、幸福だった。彼がこの世に生を受けるずっと前から、堆積し続けていた国家間対立。それが今、消失しているからである。
トーリスもかつてシャエーラ国との戦争に身を投じた。幾つかの戦地を転々としたが、中でもグレイブロックはあまりに感慨深い場所だ。ディスケイン――グラウカの一つ前の世代のギガントアームが、当時のトーリスの乗機であり。
駆け回り、飛び回り。
斬って、斬られて。
撃って、撃たれて。
殺して、殺された。
そう、殺されたのだ。トーリス・ウォルトフは一度死んでいる。少なくともその時の同僚はそう判断したし、トーリス自身も額を大きく抉られた瞬間を覚えている。
「あの爆発。まるで、迫る壁だったなァ。」
他人事のように呟いて、トーリスは額をさする。そこには抉れどころか、小さい傷一つ存在しない。当たり前だ。そもそも最初から存在しなかったのだから。
だがトーリスを先端医療、と言う名の実験施設へ送る事となった戦争は、間違いなく存在した。一応の決着を見てもいた。
そう、一応だ。確かにここ数年、ザントイル国とシャエーラ国の緊張は小康状態だった。エルガディアやアクンドラと言った、他国からの圧力があった事も大きいだろう。
だがそれは結局、どちらの国も武力を蓄え、隙を探り合う薄氷の拮抗でしかなかった。二国のわだかまりは、グレイブロック山地にあるどんな山よりも、うず高かったのだ。
うず高かった。過去形だ。
ザントイルとシャエーラの二国は今、歴史上最も静謐な状態にある。エルガディアからもたらされたあの超巨大の六角形フィールドが、それを成したのだ。