この記事はギガントアーム・スズカゼ第五話の書き上がった最新分を掲載しているものです。
これまでの話は下記リンクから読めます。
https://kakuyomu.jp/works/16817139556247117561◆ ◆ ◆
「にしてもあんなでっかい試験管みたいのに入るなんて、SF映画でしか見た事なかったなあ」
一郎の言うでかい試験管とはウォルタール内にある施設の一つ、遠隔操作室に備えられた分体保管装置の事である。精神を分離する魔法を使う場合、本来ならこうした施設を用いて無防備の身体を保護するのが一般的なのだ。
「つい昨日映画もかくやの大立ち回りをした男が、それを言うかね」
「だって昨日は無我夢中だったし。それに」
その時、ごうん、と。
一郎達の背後で、重い金属音が響いた。
振り向けば、音立てて展開するウォルタールの後部コンテナ天面。現れるのは、先程ミスカが通った通路、ではない。巨大な魔方陣である。
電子回路のように複雑な文様を描く魔方陣は、瞬く間にウォルタールのコンテナよりも大きく展開。然る後四倍ほどの大きさで安定すると、文様は突然消える。それに入れ替わり、金属の壁で囲まれた四角く巨大な空間――ギガントアーム格納庫が顔を覗かせたのである。
昨日、魔法について教わった一郎には分かる。これは魔法による空間接続。格納庫の射出口とウォルタールのコンテナ天面が繋がっているのだ。自室の冷気と同じように。
「それに、どうしたんですか?」
一郎への問いかけ。声の主の姿は見えない。そもそも脳内に直接聞こえて来ている。精神分体に備わった機能の一つ、思念通信だ。そしてその通信相手は今、格納庫内に居る。もっと詳しい言い方をするならば、スズカゼのコクピット内部にいるのだ。それも一郎やミスカとは違う、まったくの生身で。
「あぁー。いや、何というか。一夜漬けするなんて学生時代以来だったからなあ」
「成程。加藤さんは一夜漬けするタイプなんですね」
「その言いぶりだと、キミはそういうのとは縁遠い感じなのかな。えーと、ディナード、さん?」
「あはは! 止めて下さいよ加藤さん。今まで通りジットで良いですよ」
「そ、そうかい? じゃあ俺の事も名前で呼んでくれないかな」
「なんだ加藤、今更そんな所にこだわるのか」
「いや、こだわるってえか、普通に分からなかったんだよ」
「ひょっとしてジットを苗字だと思ってたんですか?」
「そう、その通り」
「ふむん。その辺は地球のヒトの感覚かもですね」
そう言ってころころ笑うのは、スズカゼのコクピットに座る少年。即ちティルジット・ディナード四世その人である。