この記事はギガントアーム・スズカゼ第五話の書き上がった最新分を掲載しているものです。
これまでの話は下記リンクから読めます。
https://kakuyomu.jp/works/16817139556247117561◆ ◆ ◆
その、十分後。
加藤一郎は、ウォルタールのコンテナ上部に立っていた。
風はない。現在ウォルタールは停車し、高い木々の影に車体を隠している。
しばし、その木々を一郎は見据える。常陽樹だろうか。一見すると杉に似ているが、葉の色が青みがかっている。加えて背が高い。巨大車両ウォルタールが十分に隠れられる程だ。
しかしてギガントアームよりは流石に低い。見やれば立ち並ぶ青葉の向こう、ライフルを構えじりじりと前進するグラウカの上半身が見えた。
ふと、一郎は口にする。
「なんか、不思議だな」
「何がだ」
答えたのは傍らに立つミスカ・フォーセル。なし崩し的に出撃許可を得た二人は、スズカゼの発進を待っているのである。
「そりゃあ、色々さ。例えば昨日まであんだけ氷だらけだったのが、今日は鬱蒼とした森の中だし」
「それだけウォルタールの足が速いという事だ」
あの場から早く離れたかったのもあるだろうがな、という続きをミスカは飲み込んだ。
「なんか、遂に俺自身がVRになったし」
掌を合わせる一郎。意識を向け、魔力を操作。すると左右の掌は、互いをすり抜けてX字のようになった。
「ほら、ほら! 凄い! 凄くない!?」
「凄くない。その程度は魔法使いにとって初歩の一つだ」
「えぇー」
「最も、魔法を使えるようになって二日目でそれが出来るのは、大したものではあるがな」
「何だよヤッパリ凄いんじゃん」
にやにやする一郎とは逆に、ミスカはひとつ息をつく。
今の言動と状態から分かる通り、今の一郎は物理肉体ではない。ミスカと同じく、魔力で作られた身体に精神を移している状態だ。スズカゼ初起動時にジットの杖先でぶら下がっていたのと理屈は同じである。
ただし、今回は状況が違う。意識の抜けた一郎の身体は今、ウォルタールの一室で安全に保護されているのだ。