この記事はギガントアーム・スズカゼ第五話の書き上がった最新分を掲載しているものです。
これまでの話は下記リンクから読めます。
https://kakuyomu.jp/works/16817139556247117561◆ ◆ ◆
確かにスズカゼにも有人操縦用のコクピットはある。だが精神融合による遠隔操縦、あるいは人工知能による自動制御がギガントアーム操縦の主流となりつつある現代において、有人操縦を行う必要性は低い。
先の戦闘が良い例だろう。あのグラウカ部隊は指揮官のトーリス機以外、全て無人だった。だというのに、何故ジットはわざわざリスクを冒そうとするのか?
「……しかし。本当に良いのですね? ディナード大尉」
「大尉。うふふ、くすぐったいなあ。というかお飾りの肩書がこんなに役に立つ日が来るなんてねえ」
一郎と違っておいそれと友好になれないミスカの呼び方に、ジットはまた笑みを深める。
然る後、真顔に戻る。
「……ええ、勿論。それが僕自身、提示した条件ですからね」
ティルジット・ディナード四世が提示した条件。
それは、加藤一郎及びミスカ・フォーセルの二名をウォルタールの臨時乗組員として迎え入れたいと言う事だった。無論、ギガントアーム・スズカゼを用いる戦闘要員として。
当然反対意見は出た。マッツだけではない。それまで沈黙していた従者のアルグやシューカ、更にはミスカさえもが異を唱えた。
『スズカゼを操縦する間、無防備となる僕と加藤の安全を誰が保証するんだ』
至極真っ当なミスカの疑念に対し、ジットは得意げに言ったものだ。
『無論、僕が保障します』
『具体的な方法は?』
『ギガントアーム・スズカゼが出撃している間、僕が生身でコクピットに搭乗します。互いを人質とする事で安全が保障される訳ですね』
絶句する皆を置き去りに、ジットは笑みを浮かべたものだ。そうこうする合間にも、断続的な爆音はじわじわ大きくなって来ている。グラウカの砲撃が正確になりつつあるのだ。
一郎は、たまらず問うた。
『な、なあ。色々とヤバいんじゃないのか?』
『まだ大丈夫ですよ。頃合いを見て、出力を上げた遮蔽魔法を張り直します。それで当面の危機は防げるでしょう』
『だが、それは当面の話だ。いつまでもこうしている訳にはいかない』
一郎を除き、この場の誰もが覚える懸念を、ミスカは代弁する。
だがジットの提案を除けられる者は、結局誰もいなかったのだ。
そして、今。
「良いですか? 現状はどうにか姿を隠せていますが、発進時には遮蔽魔法を解除しなければなりません。よってウォルタールの遮蔽再展開が終わるまで、こちらで攻撃を引き付ける必要があります」
「分かってるって。要するに攻め続ければ良いんでしょ」
軽口をたたく一郎。先の戦闘と同じく、戦意高揚魔法の影響下にある証拠だ。メインパイロットには必ず行使されるよう、スズカゼのシステムが設定しているのだ。
やる気になっているのはありがたいが、長期的に見ると良い傾向ではない。戦意高揚に限らず、精神に作用する魔法とは結局のところノイズだからだ。
例えどれだけ意気軒昂だろうと、ノイズが入った精神では肝心なところで判断を誤る可能性がある。
言わば軽く酩酊しているようなものだ。極限状況の連続する戦場で、長く戦い続けられる筈がない。
「それを補助するのもまた僕の業務、か」
「どうかしたのかフォーセル」
「独り言だ、気にするな。こちらはいつでも行けるぞ、ティルジット」
「了解です! それではギガントアーム・スズカゼ――発進します!」
かくてジットの号令のもと、カタパルトから射出された一振りの巨大刀が、蒼空を切り裂いた。