この記事はギガントアーム・スズカゼ第五話の書き上がった最新分を掲載しているものです。
これまでの話は下記リンクから読めます。
https://kakuyomu.jp/works/16817139556247117561◆ ◆ ◆
「ない、のか?」
「えっ何? お茶? フォーセルもおかわりするんだったか?」
「違う、そんなんじゃない」
のんきに二杯目をいただく一郎を横目に、ミスカは思考を巡らす。
先程通信する前、ミスカは確かに自分の身体を調べた。異常はどこにも見当たらなかったが、それはあくまでプレートによる簡易スキャンだから引っかからなかったのだ、とばかり思っていた。
身体の深部に何かがある。そうでもなければエルガディア人がウォルタール内での自由行動なぞ、まず認められる筈がない。
そう、ミスカは踏んでいたのだが。
「こうして同じ卓について改めて分かりましたぜ。若、このエルガディア野郎にギガントアーム制御を任せるのは、危険すぎやす」
「俺も一応やるんだけど」
「オメエさんは……いいんだよ、まあ、なんか」
苦虫を嚙み潰したような顔をするマッツだが、やはりジットの微笑は崩れない。
「ええ、分かりますよ。マッツ整備主任の懸念も、フォーセルさんの驚きも、どちらもね」
「……そこまで見透かしているのなら。当然僕が納得する回答も用意されているのかな」
「勿論。端的に言えば、加藤さんに原因があります」
「えっ」
唐突に水を向けられた一郎のみならず、室内の誰もが少なからず驚いた。
ミスカは、しかし合点がいった。
「そうか、加藤一郎は地球人……!」
「そういう事です」
「いやどういう事ですか」
「フォーセルさんが言った通りですよ。加藤さんは地球人です。そしてアナタは先の戦闘を、戦意高揚魔法による補助を受けて切り抜けました」
「らしいね。それが?」
「戦意高揚、に限った話ではないのですけどね。魔法による精神誘導を長期間行った場合、対象の身体や心に悪影響が及ぶ事があるのです」
「あー。薬も使い過ぎると毒になる、みたいな感じ?」
「みたいな感じです」
「しかし、若! だからと言って!」
食い下がるマッツに、ジットは事実を返す。
「我々は……いや。イーヴ・ラウスに生きる全ての者は、知らないのです。地球人に対し精神誘導系の魔法を長期間行使した場合、どんな影響があるのかをね。それともエルガディア・グループにはそうしたデータがあるんでしょうか」
「まさか。確かに地球人の社員も存在するが、彼らは一人一人が貴重な協力者であり、戦力だ。そんな実験動物のような扱いなぞ、出来る筈もない」
「なんかめちゃくちゃ不穏な事言ってないかいキミら」
「気にするな。しかも加藤一郎はギガントアーム・スズカゼのメインパイロットと来ている。エルガディア魔導国との戦いがどう動くかは未知数、どれだけの期間になるかも分からぬ以上、いらぬ負担をかけるのはそもそも下策……と」
「そう言う事です」