この記事はギガントアーム・スズカゼ第五話の書き上がった最新分を掲載しているものです。
これまでの話は下記リンクから読めます。
https://kakuyomu.jp/works/16817139556247117561◆ ◆ ◆
「あるようだな」
我に返る一郎。ミスカ。こちらを見ている。何故?
「え。なに、何が?」
「戦意高揚魔法の痕跡」
「あ、ああ。それか」
気付けば、頬を何かがつたっている。
拭う。
汗だ。
理由は分からない。
ただ、奇妙な納得だけがあった。
「……そうだな。言われてみれば、初めての鉄火場であんだけ動けたのは。確かに不思議だ」
「だろうな」
ギガントアーム・スズカゼ。一口で言えばある種の遠隔操作兵器。
それがあった所で地球、それも平和な日本で長く暮らしていた一般人が、戦場の空気に耐えられる筈もない。一郎の顔色を、ミスカはそう読み取った。
「だから。僕が引き金を担当する。加藤、キミにはギガントアーム・スズカゼの操縦に専念して欲しい」
「待て! ふざけた事をぬかすな若造!」
と、声を荒げたのはマッツだ。
「ワシらが、アクンドラが、そんな事を許すと思っとるのか!?」
「おや」
対するミスカは、誰よりも意外そうな顔をした。
ウォルタールのメカニックであるマッツ・アリンは、昨日だけでもギガントアーム・スズカゼの性能を相当に調べ上げた筈だ。間違いなく、この場の誰よりも精通している。
そんな彼がエルガディア人ミスカの搭乗に反対するのは目に見えていた。いくら敵の敵と言える立場だろうと、そう簡単に信用されまい、と。
そしてこうした話は、会議が始まる前にジットへ通されているものとも思っていた。
行動した時間は短いが、それでもティルジット・ディナード四世が聡明な人物である事は明白。スズカゼのシステムの細工も分かっている以上、ミスカがそれを交渉材料として出して来るのは明らか。
よって向こうはそれを認める代わり、ミスカ再生時に身体へ仕込んだ魔法――例えば精神破壊などの存在を明かす。アクンドラはいつでもミスカを始末できるという訳だ。だが本当に実行しまえば、スズカゼを起動する事は出来なくなる。とりあえずの拮抗状態が完成と言う訳だ。
が、しかし。
「……」
改めて、ミスカは見回す。程度の差こそあれ室内の者達は、誰もが微妙な顔でミスカを見ていた。例外はただ二人。何も分かっていない加藤一郎と、全てがわかっているティルジット・ディナード四世。
ジットは、微笑した。