見ればその左手には、拳銃に似た武器が握られていた。ミスカには分かる。左腰部装甲に内蔵されていたハンドガンだ。しかもこの爆炎から察するに炸裂弾。見た目は銃弾でも、威力は爆弾である。一郎は慄いた。
「おいおい、あっちにとっちゃ拳銃サイズでも、こっちからすりゃ大砲も良いトコじゃねえの?」
「確かにそうですが、どうやら、そこまで心配する必要はなさそうですよ」
「どうしてだよジット君」
「よく見て下さい。先程のフォーセルさんの一撃で、あのグラウカは頭部に深い損傷を受けてます。なので」
発砲。
迸る銃声がジットの説明をかき消す。ややふらつきながらも立ち上がったグラウカが、二発目の引き金を引いたのだ。
着弾。爆発。巻き起こる猛烈な爆煙は、しかし三人を守る半球フィールドへ傷一つつけない。
その代わり、炸裂は三人の左手にある氷樹を何本もなぎ倒した。
「な、なんでこんな真似を? 自然破壊が趣味なのか?」
「その可能性もゼロではないが、理由として最も考えられるのは、先程僕が頭部へ与えた損傷の影響だろう」
ミスカに言われ、一郎は改めてグラウカの頭を見る。確かに円柱状の頭部ユニットは真ん中辺りで見事に歪み、モノアイはレールから飛び出している。
「わー、なんかの前衛芸術みたいになってる」
「射撃制御もまともに出来ない以上、逃走には今が最適。初撃で頭部を狙ったのが功を奏しましたね」
「そうだな。後はこの煙に紛れ、地球に逃れてしまえば」
丁度その時、煙の一部が晴れた。奥から現れたのは、先程ミスカが繋ぎ直した次元の狭間のある氷樹。
ではなく。未だ熱を帯びる直径二メートルほどのクレーターであった。
「ん?」
「えっ」
「あれっ」
三人は目を剥いた。それからまじまじと見た。
だがどんなに探しても、見当たるのは大きい穴ぼこだけだった。
「すいませんフォーセルさん、質問よろしいでしょうか」
「何だ加藤」
「次元の亀裂というヤツは、ひょっとして爆発に弱かったりするのでございましょうか」
「察しがいいな、その通りだ。そもそもどんな魔法だろうと、魔力の供給が絶たれれば脆いものだ。もっとも……」
「もっとも、何」
「……完全に亀裂が閉じ切る前に、爆風の何割かは向こうへ行ったかもしれないと思ってな」
「ウワーッ!!! 修理費!!! いやそもそも追い出される!!!」
「そ、そんな事言ってる場合じゃないですよ!? 逃げ道が!」
などと、三人が喚きたてていると。
不意に、頭上へ影が差した。
見上げる。目が合う。ひしゃげ、飛び出たモノアイと。
グラウカが、こんな近くにまで移動していたのだ。
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