なんと!拙作が300話に到達いたしました!
すごいことです。
100話や200話でも信じがたいというのに、300話も続くとは……。
自分の備忘録のような気持ちで書き始めたものですが、ここまで広がるとは思っていませんでした。
応援を続けてくださっている皆さまのおかげに他なりません。ありがとうございます。大変力になっています。
これからも、ゆるゆると続けていけたらと思います。
現時点で300話は過ぎてしまいましたが、お祝いの応援コメントをたくさんありがとうございました。とてもうれしかったです。
ささやかながら、記念SSを書かせていただきました。
内容は、ざっくり言うとアウルの仕事についてです。いつもどおり、特にオチはない小話になっております。
300話読了後だと、より一層楽しめるかと思います。少なくとも200話くらいは読んだあとのほうがいいかもしれません。
よろしければご覧ください。
ちなみに、イラストのほうは『生まれる命を見守るメンバーたちの図』です。アウルがぴかぴかに輝いてるみたいになってしまいましたが、正確にはさらに下にいる何かが光ってます。
新たな仲間のビジュアルは一応決めてありますが、まだ秘密です。いつかお披露目できればと思います。
イラストのほうは、イメージ崩壊等にご注意ください。
それでは、下記よりSSをお楽しみください。
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300話記念SS『俺のおしごと』
(主人公視点)
奴隷の朝は早い。
しかし、この拠点には奴隷よりも早起きの人が3人もいる。
俺がいつものように目を擦りつつテラスに出ると、剣を振る2人がいた。
リーダーのシュザ、そして俺のご主人のハルクだ。
2人は距離をとってそれぞれの朝稽古をしていた。リーダーは剣を型通り振ったり、素振りをしたりしている。
そしてご主人は、大剣をゆっくり舞のように振っている。恐ろしい筋肉である。
俺が1日の最初にする仕事は、ご主人の動きに合わせて笛を吹くことだ。ほとんど遊びみたいなものだが、ご主人はとてもよろこんでくれる。そして、この稽古がとても大事なものだと俺は知っている。
吹き切ったあと、ご主人によしよしされて家の中に入った。なぜか、リーダーにもよしよしされた。
家の中に入ると、俺より早起きな3人目の人が厨房から俺を手招きした。アキだ。
朝、たまに料理を手伝う。焼きたてのパンを窯から取り出したり、お皿を並べたり、果物を洗ったり、ジャムを準備したり。
アキはパン焼きやら仕込みやら、夜明けから働いてる。たぶん、いちばん早起きだ。
俺は比較的体がちいさいので、厨房で忙しく動き回るアキの邪魔にならないらしい。よく雑用を頼まれる。ありがたいことだ。俺は雑用が仕事だから、仕事をさせてくれるのはうれしい。
朝食を食卓に並べて、みんなで朝ごはんだ。
みんな、といってもいつも4人だ。あとの2人は朝が弱い。
おいしい朝ごはんのあと、後片付けを手伝う。食器洗いと浄化は、今や俺の主要な仕事のひとつになりつつある。
洗い終わった頃に、不機嫌な顔のノーヴェとダインが居間に入ってきて朝食を取る。俺が食事を配膳することもあるし、しないこともある。
午前中は、俺の仕事がいちばん多い時間帯だ。
主に掃除と洗濯をする。
みんなは冒険者なので、森に出かけたあとはけっこう洗濯物が溜まる。
洗濯はいちばん好きな仕事かもしれない。魔法で楽にできるし、達成感がある。魔法のある世界でよかった。手洗いだと、こうはいかないだろう。
みんなの服も覚えた。
濃い色のものと薄い色のものは、なるべく一緒に洗わないって覚えたし、服の構造やたたみ方もわかってきた。わかってくると、楽しくなる。
楽しくてやってるけど、感謝もされる。
どうやら、みんなは洗濯が面倒らしい。こんなに楽しいのにな。
仕分けした洗濯物を麻袋に入れて、それぞれの部屋に届けて、ついでにベッドメイクもして終了!最近、俺はノーヴェの寝相が良くないということを知った。
掃除もやる。
しない日もあるけど、たいていやる。
浄化するだけなので。
砂とかは浄化しにくいから、ほうきで掃く。たまに自作の集塵機……掃除機もどきみたいなやつも使う。
それから、整理整頓だ。
居間はみんなの物が集まるせいか、散らかりやすい。散らかったものは、部屋の隅に置いてる大きめの木箱にきちんと収納する。何か無くしたときに、そこを見ればいいように。まあ、引き取り人のいない見捨てられた物たちがほとんどなのだが。
整頓が最も得意なのは、意外にもご主人だ。
ご主人の部屋は、いつも寂しいくらいに整ってる。本棚だけは、たまに雑然としてるけど。
そんなご主人も、他の人の分までは整頓しない。なんというか、縄張りみたいなものがあるんだと思う。たとえ同じパーティーのメンバーでも、侵犯されたくない領域があるみたいだ。
しかし、そんな領域を無視できるのが俺だ。
俺は居間もみんなの部屋(主にリーダーの部屋だが)も片付けるし、侵犯を許されている。
それが俺の仕事だからな。
どこへでも行ける。俺だけの特権。
朝のうちに、俺の主な仕事はおしまい。
あとは、みんなの手伝いをしたり字の勉強をしたり、ポメと遊んだり、みんなの依頼についていったりして過ごす。
ノーヴェの薬草園の手入れを手伝うこともある。雑草を引き抜いたり、収穫したものを入れる籠を持つ係をしたりする。
それから、薬草の乾燥を手伝ったり。これは俺のわずかな収入にも繋がることだから大切だ。
たまに、魔法の道具を作る手伝いもする。何をやってるのかわからないことがほとんどだけど、見ていて楽しい。
午後、昼ごはんの手伝いをして昼食を食べてからは、出かけることが多い。
出かけない日はリーダーと一緒に厩舎の掃除をしたり、馬たちにブラシをかけたりする。馬のメオくんルオくんは水浴びが好きなので、洗ってあげるとよろこんで俺の顔をべろべろする。ちょっとやめてほしい。
たまに、ヤクシも一緒に掃除をする。ヤクシは運送組合から派遣されて外・北西区に常駐してる御者で、黒馬のリネくんが厩舎を共有している。限りなく仲間に近い隣人だ。
ヤクシはパーティーの一員じゃないから、俺に対しては遠慮しているというか、あからさまに手伝いを頼んだりはしない。でも掃除を手伝うと、ちょっとうれしそう。
厩舎を掃除してると、たまに隣の家のエルミとマーナも手伝ってくれる。彼女たちは、俺たちが留守の間に拠点を管理してくれるのだ。
留守中の管理はご近所さんのよしみじゃなく、正式に事務的手続きを踏んでの依頼らしい。だから依頼料も払っているようだ。そんなシステムがあるんだな。いいことだと思う。
エルミたちは女性ばかりの家族だから、いざというときに拠点に逃げ込めるようにという配慮もあるみたい。……逃げ込む場所が男所帯の家っていうのもどうかと思うが。
リーダーは近所との顔繋ぎも欠かさないし、近所のみんなから頼りにされてるし、すごい。
午後は比較的自由にできる時間が多い。
採集に行った日は、採集物を仕分けして冒険者組合で買い取ってもらったり、買い物に付き合ったり付き合ってもらったり。
おやつを食べたり、掃除の続きをしたり。
なんだか、のんびりしてる。この国の人はみんなのんびりしてるから、俺も働き詰めってかんじはしない。
前にいたところは、どうだっただろう。
思い出そうとして、やめた。
働き詰めじゃなかったけど、暇を持て余した人たちの暇つぶしに使われてたことしか覚えてない。思い出す価値はない。
俺には今、やらなきゃならない仕事があるんだから、昔のことはいいんだ。
そういえば、俺はダインの手伝いはあまりしない。そもそもダインは居間のクッションの海で寝転がってるか、酒を飲んでるか、たまに本を読んだり俺の椅子になったり棋盤をやったりしてるくらいだ。
仕事をしていないから、手伝うこともないんだよな。だから、隙あらば巣を浄化しようとしてるんだけど、いつも追い払われてしまう。
たまにダインを巣から追い出してクッション類の洗濯に成功することもある。
クッション以外のものがごろごろ出てくるから、油断できない仕事だ。ここだけ4次元なんだと思う。
ダインはだらしない格好だけど、綺麗好きな上にお洒落なやつなので寝床が汚れてることはない。自室もびっくりするほど綺麗だし。まあほとんど自室にいないからかもしれないが。
そんなわけで、晩ごはんの時間まではゆっくり時間が過ぎる。
夕飯の配膳やら後片付けを手伝ったら、今度はお風呂に入るという仕事がある。
入るついでに掃除しちゃうことが多い。浄化するだけだし。たまに昼間に水垢がつかないようブラシで壁をゴシゴシしたりもする。
あとは、ご主人の髪とポメを魔法で乾かしてあげて、本を読んだら1日の仕事は終わりだ。
俺はご主人の奴隷なのに、ご主人の手伝いはとても少ない。役に立ってるといいんだが。逆にたくさん世話されてる気がしてならない。
10歳の子供の1日にしては、仕事が多いように思えるかもしれない。
でも、この世界だとこれが標準だ。俺は奴隷という身分だけど、他の子供達と仕事量は変わらないと思う。
仕事してるというより、生活してるって感覚に近い。
向こうの世界のことはあまり覚えてないけど、一般的に子供は学ぶのが仕事だったと思う。
でもこちらでは価値観が違う。
仕事と学ぶことが切り離されていない。
仕事があるというのは、つまり社会的な役割が与えられているってことだ。その分、責任も生じる。
俺は、そういう形もいいと思う。
人として尊重されてる気がするからな。
そんなのんきな事を言っていられるのも、この国において奴隷が『搾取対象』じゃなくて『雇用形態』の一種という扱いだからだ。
この国家間の取り決めには、本当にお世話になってる。決まりがあるというのは、とても安心感がある。そうじゃなきゃ、他人の善意や善性に左右される博打みたいな人生になっていたことだろう。
国際法よ、どうかいつまでも安泰であってくれ。お願いします。
寝るときはいつも、1日のうちで達成できたことを数える。
たくさん手伝いをした。
たくさん遊んで、たくさん学んで、たくさん食べた。
あとは、たくさん寝るだけ。
ああ、そうだ、最後の仕事をしなきゃ。
おやすみ、ポメ。
ポメに挨拶をしてから、目を閉じる。
今日もたくさんしあわせだった。
(おしまい)
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