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『奴隷くん』100話到達記念SS!と絵

なんと!
100話も続いてしまいました。
10年のブランクがありながらも、こうして長編を執筆できるようになる日が来るとは。感無量です。

いつもありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。


記念にSSを書きました。

別視点……というか三人称のダイン視点の話です。
ダインから見たアウルの印象などです。

拙いものですが、お楽しみいただけましたら幸いです。


それと、最後にSSとは無関係のイラストがあります。大丈夫な方は、よろしければご覧ください。






***

記念SS『ここから見える景色』(別視点)





「オメェ、早起きだなァ」

 そう言ってダインが頭を撫でると、少年は胸を張って得意げな顔をした。

 自分は優秀な奴隷なので、と言いたいようだ。優秀と早起きは関係あんのか、と思ったが、口には出さないでおいた。

 大きなあくびをして、ダインはいつもの場所でごろんと横になる。

 ここからは、すべてが見える。

 写本作業をするシュザ、古文書を読みふけるハルク、庭仕事をするノーヴェ、厨房や貯蔵庫を行ったり来たりするアキ。

 そして、皆の間でちょこまかと動く赤茶色のまるい頭。

 あの少年、アウルが来てから、ずいぶん賑やかになったものだ。

 ここ数年繰り返してきた朝とは少し違う一日の始まりに、目を閉じた。


 初めは変な奴だと思った。

 思考と行動が噛み合っていないような、そんな違和感を覚えた。

 次は悲しい奴だと思った。

 口が利けなくなるほどの目に遭い、それまで『視た』ことのないような恐怖を体験している。

 ダインは従軍経験がある。だから、どん底、一番下をすでに見たと思っていた。だが、アウルはそれとはまるで異なる恐怖を知っている。悲しいことだと感じた。

 最近は面白い奴だと思っている。

 大抵の人間は、思考を読むダインの『権能』を敬遠しがちだが、アウルは違った。

 どんどん読んでほしいとすら考えていた。

 心を開いている人間の思考は、かなり読みやすい。『権能』を使うには、それなりの精神力が必要だが、アウルはほぼ全開にしているためか、逆に流れ込んでくるほどだった。おかげで疲れを覚えたことはない。

 その垂れ流しの思考が、実に面白いのだ。

 例えば、アキの手伝いをしながら食器をそうっと持ち上げている。

 動きだけ見るなら、割ってしまわないように慎重に持っているように見える。

 しかし、思考は違う。

 まず食器の手触りに感心し、どこで作られているのか、どんな土を使っているのか、どうやって色付けしているのか、何を盛ることを想定しているのか、どんな料理が映えるか、今日の夕飯は何か、といったことが駆け巡っている。

 おおよそ9歳の少年が考えることではない。最後の、今日の夕飯のほうへ思考が逸れていくところなどは、年相応と言えるかもしれないが。

 このように、何を見ても、何を聴いてもあらゆる考えを巡らせているのがこの少年だった。

 見ていて飽きない。

 一体どんな育ち方をしたら、こうなるのか。

 アウルの親については、本人も覚えていないようだった。

 子供の奴隷の場合、親としての権利は主人に移行する。だから今の『親』はハルクということになる。

 だが、ハルクのことは親や主人というより、飼い犬か何かのように思っている。

 実に的を射ているため、いつも笑いを噛み殺すのが大変だ。かわいそうなので、主人にそのことを教えてやるつもりはない。

 そんなアウルだが、シュザのことを『お父さん』と形容することがある。

 親を知らないはずだが、親の概念を理解しているのは驚きだった。

 治癒院付きの養育院で育ったダインにとっては、親というものは想像しにくい存在だった。

 同じように孤児であるはずのアウルが、どうして何の躊躇いもなくシュザを『お父さん』と呼べるのだろう。

 知れば知るほど不思議な奴だ。



 昼食の時間になり、全員が席に着く。

 アウルはじっと食器に盛られた麺を眺め、ほうと感嘆のため息をついた。

 どうやら、アウルにとって食器と料理が完璧な組み合わせだったようだ。

 側から見れば、料理に釘付けになっているようにしか見えないだろう。

 実際、釘付けではある。料理の時は思考が単純になり、美味しい!という言葉で埋め尽くされる。思考だけでなく、顔も美味しい!になった。

 最近、アウルはどんどん表情が豊かになってきている。

 話せないからか、顔や体で表現することを躊躇わなくなってきた。

 初めは傷だらけでむっつりと不機嫌な顔をしていて、見た目では何を考えてるのかわからないような子供で、触れようとすると体を固くしていた。

 今では、控えめだが自分から抱きつくこともあるし、頭を撫でられるとほんのりと嬉しそうにする。

 自分たちの手で、少年のあるべき姿を取り戻しつつあるというのは、なかなか感慨深いものがあった。


 昼食後、寛いでいる場所から目を上げると、アウルは庭のノーヴェのまわりで元気に動き回っていた。

 いい景色だ、と思う。

 こういう時にぴったりの酒は……と寝椅子の下に手を伸ばしたところで、アウルがテラスから居間に入ってきた。

 何やら嬉しそうに、草を差し出している。

 ダインにはわからないが、四つの葉がついたそれは、どうやらアウルにとっては特別で幸せを呼ぶものらしい。

 なるほど、確かにそうかもしれない。

 それを受け取ってから、ダインは少年の頭に手を置いた。この動作もひとつの祝福だ。


 幸せになれ、お前が与えているように。


 そう祈って暖かい魔力を流し、祝福した。





(おわり)

***



読んでいただき、ありがとうございます。

イラストは、アウルとご主人です。


4件のコメント

  • 100話おめでとうございます、そしてありがとうございます!
    私も、アウルから幸せのお裾分けを(勝手に)頂いている身として、感謝しかありません🙏🏻✨
    重ねて、ありがとうございました♡
  • >Rommy様

    まさにおっしゃる通りで、落差を知るダイン視点を表現するのはなかなか難しいものがありましたが、どうにか形にすることができました。
    あたたかいお言葉をいただけて、とても嬉しいです!
    コメントありがとうございました!


    >@misumis様

    こちらこそ、お祝いの言葉をありがとうございます!
    アウルを見守ってくださる方のおかげで、作者も幸せいっぱいです。これからも、皆さまのもとへ幸せが降り注ぎますように。

    コメントありがとうございました!
  • 100話おめでとうございます。いつも楽しく読ませていただいてます。
    色々な出来事が過去にあり、未来も大変な部分が見え隠れしていますが、それでもほのぼのと積み重なっていくアウルの日常に触れると、穏やかな気持ちになります。
    SSを読んで、ダインもそんな風なのかなと思いました。いえ、自分を肯定してくれる存在ですから、それ以上なのでしょうか。
    イラストのむっつりしたアウルも好きです。
    これからも頑張ってください。楽しみにしています。
  • >@ootori-momo様

    お祝いの言葉をありがとうございます!
    いろいろあってもハッピー!というのを目指しておりますので、そう言っていただけて大変励みになります。
    イラストまでご覧いただいてうれしいです!拙いものですが、アウルの表情が伝わってよかった……と安心いたしました。

    コメントありがとうございました!
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