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道具屋トールの日常 1話のあとがき

あとがきの前に、まずは、『道具屋トールの日常』がどう生まれてきたのかを、お話します。この物語の発端となったのは、漫画『ハクメイとミコチ』の4巻に出てくる、「一服の珈琲」というお話です。『ハクメイとミコチ』は僕の一番好きな漫画で、齢30(当時27?)になって、思い出補正もなしに、ここまで評価の高い作品に巡り合えたことを、神(神さまと作者:樫木祐人さんとそれを支えるアシスタントの方々)に深く感謝しました。愛してはいますが、僕の拙い話よりも、『ハクメイとミコチ』の話をしたくて、「いや、むしろ『ハクメイとミコチ』のレビューを書いた方がいいのか?」と思ってしまうくらい、大、大、大好きなのであります。その世界観、人々の温かい営みに打たれ、今まで暗い作品しか書けなかった、僕の小説家(自称)人生に光を与えてくれました。いくら感謝をしても足りません。本当にありがとうございます。

さて、肝心のあとがき、と行きたいのですが、その前にこの作品に(も)はモデルとなった人たちがたくさんいます。後から気づいて、「あれ?これ、あの物語のと一緒じゃね?」となったキャラクターもたくさんいます。

まず、主人公のトール。僕の文章から伝わっているのなら、幸いなのですが、トールのモデルは『蟲師』のギンコです。いつも(蟲)煙草を咥え、飄々と、それでいて人間臭いところもあり、渋みの効いた中年で、何よりカッコイイ。そんな主人公に憧れて、トール=マキナは出来上がりました。

トールのキャラクターを紹介しようとすると、その前に、何故お仕事物をやろうと思ったか、と言うところも話さねばなりません。

僕は、幼い頃から小説家になりたくて小説を書いていたわけではありません。小さい頃なら夢にも思っていないでしょう(です)。プロフィールには書いてありますが、小説に触れるようになったのは、中学生からです。文章を書いたのも、授業でやった作文が精々です。アルバイトで学生時代から、社会に触れていましたが、高校を出てからは、いつかファッションの業界に行くという夢を、歯を食いしばって抱きながら、中小企業の工場へ就職をしました。

そこでの経験が、この物語の種になっています。精密機械(といっても時計や医療機器のような高度精密機器ではない)の製造に準じて、道具(工具)に触れてきました。その時の、道具が手に馴染んでいく感覚があったから、この物語は始まり、そして、今も楽しんで書き続けています。

時間は有り余っていましたから、その時々に、トールたちの暮らす、ハナサキペトラオウスミカという街(龍の歯医者から生むる)にどんな人が息づいているのか、どんな世界なのか、古き良き道具との関わり方、閃いた『お仕事日常微ファンタジー』というジャンル、と、浮かんだアイディアをどんどん具体化していき、短編として短くてもいいから、自分の読みたいものを作ろうと、執筆してい(ます)きました。

ここまで話して、ようやくあとがきです。冷え切った工房で、ストーブの熱を頼りに、煙草を吸いながら仕事をする職人。というオープニングのシーンが思いついた時、僕の中で何かが始まりました。その頃、同時期に書いていた(今も執筆中)『ペイルスター』も、決して筆が止まったわけではなかったのですが、思いついた道具屋の導入は頭を離れませんでした。

例によって姉に読んでもらったのですが、「この一話と、他のトールは別人」と意見され、「おおん?う~ん、そうかぁ?」と思いつつも、その当時、ゾーンに入っていたこともあり、次々に新話を書き上げていた時に、厳しいコメントをもらいメンタルが傷つき、人生二度目のスランプに陥ってから、苦汁がこみ上げてくるのを堪えながら、校正し(してもらいもした)、落ち着いて振り返った時、確かにこのトールと、その先のトールとでは性格が違います。もちろん一話のトールもトールです。しかし、トール=マキナという人間が僕の目に見えてきたのは、二話、三話、四話、と物語が先に行くに連れてでした。物語から導かれたということもできると思います。トールの人間臭さ(弱さ)を書けた時、真似ではない僕自身で作ったトール=マキナが出来上がったと思います。

しかし、トールは僕の作品において一番自分に近しい存在であり、自分で作っておきながら、少なからず憧れも持っています。「男の仕事はこうやりたい」と読者に思いを抱かせられたなら。彼の成長は僕の成長でもあり、僕が成長することにより、彼も成長させることが出来る。目に見えない相棒のような、お兄さんのような、いつまでも歳を追い越すことなく、共に(彼の背中を見て)歩んでいきたいと思っています。

全文読んでくれた方、本当にありがとうございます。お疲れ様でした。
これからも、穏やかな人々の営みを書くべく、無機質で温かな道具に魅せられて。

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