■グッドナイト01/責任なんて取りたくねえ!
人を三人は確実に殺してそうと評判の女学院教師・柏木冬八は今、全裸で幾度となく繰り返した後悔の渦に飲み込まれていた。
現在地は職場から遠いラブホテルのベッドの上、隣でうっとりと呆けているのは同じく全裸の美少女。
そう。全裸で。美少女。冬八は大人で、美少女という事は彼女はまだ未成年で。
(ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!! お、俺はまたコイツの誘惑に乗って…………くぅっ、教師である俺が教え子に手なんか出しちゃいけないのにまた……ッッッ、それもこれもコイツがくっそエロいのが悪いんだガキの癖にAV女優よりナイスバディでアイドルより顔が可愛いのがいけないんだああああああ!!! そんなんで誘惑されて流されない男なんていないだろうがあああああああああああああああああああ!!!)
(――――は、ぁ……、今日も柏木センセぇ……すっごく情熱的だったなぁ)
彼が苦悩している一方、艶やかな溜息をつく美少女・城井椿は先程までの情事を半数しながら幸せそうに己の体を眺める。
白い肌のあちこちにキスマーク、大きな胸にも沢山ある、座っているので見えないが自慢の形も大きさも魅力的な臀部にも多くの愛された痕があるだろう。
凶相の男を愛おしく見つめながら、そっと肩をくっつけ。
(……………………ハッキリさせてやるっ! 今日こそは恋人だって、一歩譲って俺のオンナだとかセフレだとかとにかくアタシ達の関係をセンセの口から言わすのよッ!)
(っ!? この気配……来るのか椿ッ! つーかどうしてセックスした後に言って来るんだよコイツは!?)
――城井椿という少女はとても裕福な家庭で育ち、類い希なる美貌により何一つ苦労せず育った。
生まれ持った金髪には赤と紫のメッシュが入り、制服は校則ギリギリにセクシーな着崩し深い胸の谷間が露わ、今は外しているが真っ赤な付け爪は長く。
つまりはギャル、お嬢様育ちが多い名門私立女子校には珍しいタイプであるがそれが故か、或いはサバサバとした明るい性格からか学年問わず多くの生徒に慕われており。
「ね、柏木先生。そろそろハッキリさせましょう? 私とぉ、先生のぉ、カ・ン・ケ・イ」
「関係? 生徒と教師、それ以上でもそれ以下でもないだろ」
「こーやって毎晩のようにセックスしてても?」
「…………ぐぅぐぅ」
「センセ、寝たフリ? この自慢のKカップを好き放題して細い腰をガンガン掴んで後ろから好き放題してぇ、普段は制服のスカートの隠されたおっきなお尻を手形がつくまで揉みしだいて――、そんな事ができるヤツとアタシって、どんなカンケイだと思います? 恋人? セフレ? 教師なんだから答えられるよねセンセ?」
椿はにまにまと笑いながら、指先で冬八の頬をつついた。
何一つ苦労せず育ち地頭の良さから学力も申し分なく、そんな彼女が唯一思い通りに行かなかったのが柏木冬八という教師である。
彼はペシっと彼女の指を払いのけながら。
「処女返すから無かった事にならない?」
「話は変わりますが柏木先生、殿方の大事なゴールデンボールは二個ありますが――、一個ぐらいなくなっても問題ないと思いませんか?」
(ッッッ!? こ、コイツいきなり最終手段使ってきたぞ!?)
冬八は己の顔面に初めて感謝した。
三人は殺していると評判の凶相は、同時に彼が動揺しても一ミリも変化しない鉄壁の表情筋で。
故に、椿にはどんな時にも冷静沈着な大人の男に見えて。
(もうっ、少しは動揺してくれたっていいじゃん柏木センセっ! ……セックスの最中だけはあんなに色んな表情を見せてくれるのに――)
(うおおおおおおおお! 考えろ考えろ! こんなものブラフだ実行なんて…………いやでもガキの癖に誘惑して迫ってきたヤツだぞ??? しかもお嬢様育ちだし学内でも人気者だし…………)
(あと少しだけ近づいたら、もっとアタシのことを考えてくれる? もっともっと、アタシのことを好きになってくれる? ――大事な恋人だって、言ってくれる? 言って、言ってください、言って欲しい、…………言え、絶対に言わす)
あと一ミリでも椿が近づいたら例え全裸のままでも逃げだそう、そんな決意を秘めながら冬八はこっそりと拳を握る。
絶対に言うものか、どんな関係なんて確定させてしまったら。
(終わるっ、関係を認めたら俺の人生おわるううううう!!!! 人生の墓場なんてメじゃねぇ、十中八九どっかから関係がバレて淫行教師として逮捕されてしまうッ! 今の状態でさえバレたら終わりなのにこれ以上リスクが高くなってたまるかッッッ!!)
クズ教師柏木冬八は、必死で脳ミソを回転させこの場をやり過ごす方法を考えていたのだった。
■グッドナイト02/こうなったら
男なのだから何発も出した後は、所謂賢者タイムで思考は明晰に働く筈で。
しかし淫行数学教師、柏木冬八は内心で非常に冷や汗をかいて焦っていた。
彼の人を三人ほど確実に殺してそうな凶相は、ピクリとも動かず椿から見れば冷静そのものに見え。
――城井椿はそれを楽しげに、けれど少しばかり切なげに見つめながら。
(ちゃんと言葉にして柏木センセ、そしたら昼間でも校内で隠れてイチャイチャしてぇ、パパとママに旦那様になる人だって紹介してぇ、それからそれから――――)
(なにか回避の方法は!! 何を言えば回避できる!?)
方や頭が真っピンク、方や保身しか考えていないクズ男。
強引に押し切ることはしたくないからこそ、椿は冬八の言葉を待って。
しかし彼としては言葉にしてしまうと社会的に一巻の終わり、何とか誤魔化せればいいが。
(どうする……どうすればいい、クソがモテ男達に教えて貰っておけばよかった! そもそもコイツとセックスするまで童貞だったんだぞ? この顔のお陰で女にモテた事なんて一度も無かったし、こんな時に何言えばいいかわかんねーよッッッ!!!)
学生時代からずっと一緒にいる親友達は揃いも揃って顔がよく、しかも本人の能力や家柄も抜群の為、周囲の異性は皆彼らに群がっていたものだ。
ともあれ今は過去を思い出し現実逃避している場合ではない、彼がちらりと横を見れば椿がしっとりと濡れた目で今にも抱きつこうとしている。
カッコイイ言葉なんて持ち合わせていない彼は、徐に体を起こすと。
「……えっ、ええっ!? 先生!? 柏木センセ何して、頭を上げ――――」
「――すまない!!」
それは見事な土下座だった。
只の土下座ではない、情事の後故に全裸での土下座。
「すまない城井……俺はまだクビになりたくない、名門私立女子校の教師という給料の良い職を失いたくないし、社会的に死にたくない、…………未成年との淫行で逮捕されたくないんだ!!」
「うっ、そ、そー言われると……」
「だから少なくとも今日の所は勘弁して貰えないだろうか! 頼む! この関係はこれっききりにしようとも言えない俺の弱さを、ダメさを許してくれ!!! 城井のカラダが最高すぎるからいけないんだ!!!」
「ううっ、う゛~~~~っっっ!」
それは最低過ぎる謝罪だった、関係を断ち切ることもせず、受け入れることもせず、曖昧なままこの先も肉体関係は続けたいと願う最悪の言葉。
――だが、椿としては。
(…………はぁ、惚れた方が負けってさ。こーいう事よねぇ……)
言ってることは最低最悪であるが、全裸土下座というみっともない姿であるが。
誠実さを覚えてしまったのだ、何より――胸がキュンと高鳴ってしまって。
彼女は深々と溜息を吐き出すと。
「はぁ~~~~~~~~~~あ、今日の所はもういいよセンセ」
「ホントか城井! ありがとう!!」
「まったくもう……じゃあ寝よっか、明日の朝シャワーを手伝って髪を梳かしてくれたらチャラにしてあげるっ」
「分かった、恩に着るぜ城井」
そして二人は就寝することになったが仲良くシーツに包まった後、椿はそういえばと口を開き。
「ね、ね、センセも知ってるよね、リリのこと」
「リリ? ああ、お前のダチの遊日梨理のことか。遊日がどうしたんだ?」
遊日梨理(ゆうひ・りり)は椿の親友で、華奢で可憐な美少女である。
椿が見た目穏やかなお姉さん系美人だとすれば、梨理は可愛い系のお姫様美少女。
誰からも愛され、冬八と同じ教師である親友達も彼女にご執心だと聞くが。
「それがね? この隣のラブホに梨理と倉地先生達が四人で入っていくのを見ちゃって…………」
「………………四人? 四人で??」
「うん、梨理の他に現国の倉地と、保険医の月夏ちゃんと音楽の嵯山っち」
「何やってのアイツら!? 四人でラブホ!? しかも生徒と!? そりゃ遊日と距離が近いなとは思ってたけど乱れすぎだろ!?」
「けっこう大声で梨理を多くイカせた者が正式な夫だとかなんとか……しかもリリは制服のまんま、ヤバすぎじゃない? アタシでさえ一回帰って着替えてからココ来てるのに」
「合意の上にも程があるッッッ! しかも大声で制服!? 何考えてんだアイツら…………!!」
生徒に手を出しているという点では冬八を彼らは同じ穴の狢であるが、大きな声を上げながら四人で、しかも一人は制服のままラブホに入っていくなど常識外れにも程がありすぎる。
「――――アイツら明日あったらぶん殴って説教してやるッッッ!」
「あはは……、柏木センセも大変だぁ。アタシもリリに言っておかないと。ったくあの子ったら…………」
一人は頭を抱え、一人は苦笑しつつ。
二人は今度こそ眠りについたのであった。
■グッドナイト03/腕枕して欲しい
逆ハー美少女、遊日梨理と法律違反な仲間達は冬八によって正座でお説教という憂き目に遭った。
それを聞いた椿は苦笑しながら愛する冬八と今宵もラブホテル・パライソで、それはもうケダモノのように激しく求められ幸せを感じていたが。
それはそれとして、ぱっと見は悩みなんて無いお気楽ギャルの椿であるがとある悩みを抱えており。
(――ネットの記事で読んだことはあるが、ガキとはいえ女か。やっぱそういうのして欲しいのか? 視線で丸わかりだぞコイツ)
(きょ、今日こそはセンセに腕枕して貰うのっ! いっつも終わった後は少し離れてさ? 寂しいったらありゃしないんだから、……今日という今日こそは腕枕で一緒に寝るっ!!!)
(腕枕ってそんなにイイもんなのか? そりゃ俺としてもやってみたい気持ちはあるが……)
むぅと、冬八は唸りそうになった。
このまま放置すれば勝手に腕枕をさせられそうで、許可を出してしまえば椿は恋人気分でつけあがるだろう。
大人で教職にある彼が肉欲に負けているのが一番悪い訳ではあるが、毎晩のように金髪巨乳ギャルの教え子とラブホにいる危険を犯しているのだこれ以上のリスクは背負いたくなくて。
「――腕枕はせんぞ」
「ひどっ!? アタシまだ何も言ってないのに気づいててソレなワケ!? ぶーぶー! ちょっとは恋人っぽいことしよーよぉ柏木センセぇ」
「ふん、何を言おうが俺の腕は使わせん。つーかもう遅いんだから寝ろよ、今回は朝の身支度手伝わんぞ」
「えーっ! そんなぁ…………アタシで童貞捨てた癖に」
「ッ!? おまっ、お前なぁ、それこそズルいだろ! どこの男がその台詞に勝てるんだよ!!」
「ホントぉ? センセの顔、一ミリも動いてないんだけどぉ?」
椿はジトっと不満げに、愛しい冬八の横顔を見つめた。
彼とすれば表面上は身じろぎする度に揺れる巨乳など興味ないと言わんばかりの目で、しかして内心でうっひょうエッッッロすぎ!と見ていたし。
童貞捨てた癖になんて台詞には、心臓がきゅうと握りしめられたような痛みを感じてしまうほど動揺していたが。
「…………顔に出てないだけだ、言葉では動揺してただろう」
「ウソだぁ、確かにそうだけど口を顔が一致しなさすぎてすっごくウソ臭く見える」
「城井? それは流石にちょっと傷つくぞ???」
「てへっ、ごめーん。お詫びにぎゅってくっついて寝てあげるからユルーシて?」
「詫びになってない。はん、お前の得にしかならんことなんてするかよ」
「くっ、手強い! いつもだけど、いつもだけどっ!!!」
むぅと頬を膨らましむくれる椿はとても可愛らしかったが、ここは心を鬼にして少しでも保身を計る時である。
冬八には護りたいモノがある、名門校の教師という立場、その給料、世間から後ろ指さされずかつほんの少しだけ羨ましがられる生活を送るためなら――。
(すまんな城井……俺はクビになったり未成年との淫行で捕まったりする可能性を少しでも下げられるなら)
――お前の願いだって無視してみせる。
なんて、今宵も五発はたっぷり出して椿はその倍以上の数を天国に上らせ超絶エンジョイしていた事を棚に上げ彼は彼女を無視した。
そのクズ丸出しの心までは分からずとも、全裸の金髪巨乳ギャルは無視されている事をハッキリと理解しており。
(う゛~~っ、いっそ強引に……、流石に一度頭を乗せればセンセも拒否らないだろうし、でも)
叶うなら。
(センセの方からぐいっと引き寄せられて、腕枕して欲しいなぁ……いいなぁ憧れるなぁ、くっついてすやぴーしたいっ!!!)
(くっ、無視だ無視! すっげぇ視線感じるけど無視しろ俺ッッッ!!!)
(…………女は度胸、力こそパワー、そっこーでキメればワンチャン――)
(雰囲気が変わった!? 強引に来る気かコイツッッッ、どうする力ならコイツに負ける訳がない今は賢者タイムで色仕掛けなんて俺には通じない、…………だが)
柏木冬八には、生徒である城井椿より立場が上である教師であるが故に弱点が存在していた。
だってそうだ、今のご時世コンプラがどうのと五月蠅く、モンスターペアレントだって問題なって久ししモンスター生徒の存在だって。
つまりは椿が暴力を振るわれたと言うだけで、そもそも無理矢理襲われたと発言するだけで彼の人生など一瞬で吹き飛ばしてしまう。
(なら――先手を打つ、無理難題をふっかけて諦めさせる、これしかないッッッ)
■グッドナイト04/媚びっ媚びの
相も変わらずクズ教師の凶相は一ミリも動かなかったが、幾度となく体を重ねた椿には多少の理解度があった。
この感じなら、今は。
(やぁ~~んっ、何か考え込んでる柏木センセもカワちぃっ!! ……ってきゅんきゅんしてる場合じゃなくて)
(ゆっくり考えてる暇なんてない、数学の問題を出す? コイツ学年最上位だよな大学生レベルじゃないとダメそうだし手頃な問題なんて咄嗟に思い出せねぇよ! ならならなら、なら……――)
金銭の要求だと様々なリスクがある上に逆手に取られる可能性がある、物品も同じく、形に残らない、見えないモノ。
可能なら冬八に利益があるものがいいし、椿の勢いを削ぐものがいい等々と。
我が儘すぎて欲張りすぎて纏まらない思考は、ついうっかりと。
「――我慢は良くないぞ城井、言いたいことがあるなら言うべきだ。俺の気持ち……分かってるんだろう?」
「ッ!? せ、センセ……それって――――!」
瞬間、椿はガバっと上体を起こし青い瞳を潤ませ感激したように唇を震えさせる。
身を乗り出して今にも抱きついてきそうな彼女に、彼はいつもの様に無表情で。
その内面といえば。
(なんかクソほど曖昧なこと言っちまったあああああああああ!? は? なんだ俺の気持ちって、俺自身がわかんねーーよ!!! い、いやでも絶対に当たらない……変わりにコイツが何言い出すかわかんねーーよなぁ!? というか何かする寸前だよなコイツ!!!)
やらかした、と後悔と焦りで冷や汗をダラダラ流し始める。
一方で椿といえば、丸出しの巨乳の下で祈るように両手を組み。
(きゃーーーーっ、そ、そんな……まさかセンセも同じキモチだったなんて! いや~~ん、腕枕してくれるってコトぉ? でもっ、でもでもでも、つまりコレって――)
彼は言いたいことがあるなら言えと、ならば素直に腕枕して欲しいと。
同時に同じ気持ちだと告げた、故に彼も腕枕したいという事で。
更に、彼から言わないという事実を考えると。
(…………今、アタシは全力で恥じらいを捨てるっ! うぅ、柏木センセったらセックス終わってもベッドヤクザなんだからぁ……、今はイカされまくって正気じゃない時じゃないのにぃ)
(なんかヤバイ空気だしてないか城井のヤツ!? 今すぐ止めるべきか? いやでも――)
もじもじしながら恥ずかしそうに頬を染める全裸のギャルに、尻の穴の皺まで数えた中なのに恥ずかしがる事があるのかと冬八は疑問を浮かべた。
けれども例によって凶相は鉄面皮で動かず、椿は己が口を開くのを優しく待ってくれているように思えた。
当然誤解なのだが、それは彼女にとって意を決する理由となり。
――そして。
「お、お願いふーゆくんっ! 椿なんでもしちゃうからぁ……、ふゆくんの望むプレイもお金だってなんでもあげちゃうからぁ…………、今日は腕枕して、いちゃいちゃしながらすやぴしたい、な? ――――だめ?」
「ッッッ!?」
甘くとろけるような声だった、都合の良い女になってもいい、そんな覚悟を乗せ媚びに媚びた台詞であった。
白い肌はうっすらと赤く羞恥に染まり、何もかもに恥ずかしくなったのか視線は泳ぎ両手で乳首と股間を隠す始末。
全身全霊で媚びているのに、大いに恥じらって後悔すら浮かべている様子は冬八のクズマインド防壁を易々と突破して。
「――可愛すぎるだろお前(可愛すぎるだろお前)」
「ひゅいっ!?」
「はぁ……お前の魅力には負けるよ。これからずっと俺の腕枕で寝ていい、いや寝ろ、寝かせてやる」
「ぴぃ!? せ、センセ、柏木先生……!?」
「お前に拒否権はねぇ、大人しく腕枕させとけ」
そうして冬八は椿とぴったりくっつきあって、腕枕して朝まで過ごす事に決めた。
戸惑いながら照れながらも彼女は、彼にしっかりと抱きつくように腕枕を堪能する。
密着した体と体がお互いの体温を伝え合って無言、やがて眠気が意識を落とす少し前――。
「あ、そういえばセンセ。リリと倉地先生方の例のメンバーが空き教室でヤってるの見ちゃった」
「…………………………ばっかじゃねぇのアイツら??? いくら私立で理事長の息子とか大物の関係者ばっかとはいえ教師だぞアイツらマジか本気か???」
冬八は朝になって通勤したら、件の親友達を中心人物である遊日梨理も含めてゲンコツを落としてやると決意。
大きな溜息を吐き出すと、無意識に椿の髪にキスをしてから眠るのであった。
なお、椿は突発的なその犯行に動揺し眠ったのは一時間後の深夜三時だったという。
■グッドナイト05/お弁当
逆ハー女もとい遊日梨理と親友達にげんこつをお見舞いし説教したことは、理由が正当すぎて逆に感謝されてしまったのは冬八にとって腑に落ちない事だった。
とはいえそんなものは些細な出来事、今日も今日とてラブホテルパライソで一戦どころか三戦ほど交わったいつもの事後。
毎度の如く賢者タイムにある彼には、とある悩みがあって。
(くそっ、思い出すだけで腹が立つ……。アイツら散々女の子の手料理食べたことあるか? なんて自慢しやがってッッッ! そんなの俺にだって……俺にだってぇ…………ねぇよ!!!)
(あ、柏木センセってばまた何か考えてるーーっ、うーん、何だろ……? まぁいいや、せっかく腕枕が解禁になったんだし、しっかり抱きついても……ああ、そうしちゃうとセンセの顔が見づらい……)
(つかアイツら顔も脳ミソも家柄も良くて女の手料理なんか幾らでも――いや、そういや高嶺の花扱いだし学生時代は俺らバカ騒ぎばっかしてて、そんなイベントなかったな。あったら絶対に邪魔してるし)
(そろそろガッコの中でもセックスしたいなぁ、でもそーゆーのセンセは一番嫌いそうだし、誘惑したら流されてくれそうだけど後が恐いなぁ……)
二人とも全裸でぴとっとくっついて寝転んでいるのだが、考えていることはバラバラだ。
冬八は親友達へのジェラシー、そして夜の二人大運動会の後の空腹で料理のことしか頭にない。
椿といえば、相変わらず仲を進展してイチャイチャしたい欲望しかなく。
――そんな中、ぐぅと大きな音が一つ。
「…………腹減ったな」
「確かにぃ、ねぇセンセ、ルームサービス頼む? それともウーバーっちゃう?」
「あんま金使いたくねぇし、もし配達して来たヤツから俺らのことが漏れたらなぁ。何か買い込んで来るんだった」
「あー、今度からそうす……――――っ!?」
その時であった、椿の脳裏に電流が走る。
彼女とて裕福な家の出、つまり教育はしっかりされている。
お嬢様育ちといえば料理が苦手というイメージはつきものであるが、その辺り椿はばっちり仕込まれているのだ。
(こっ、これはもしやチャンスぅ!? センセに手料理! 好感度アップの絶好の機会!!! ふぅー、はぁー、おち、落ち着いてぇ、ここは慎重に言質を取らなきゃ、上手く言えばガッコで食べるお弁当を作れるかも!!! そしたらぁ……きゃっ! お嫁さんにしたいって言ってくれるかもっ!!!!)
(――不味い、コイツ変なこと考え始めたな?? だがしかし女の子の手料理を食べられる……いや待て、城井は料理できるのか?)
城井椿はえっろい金髪ギャルという見た目に反して優等生だ、むしろ優等生であるからこそ名門私立女子校であっても生徒指導から見逃され、皆から慕われている一因で。
ならば期待できるのではないか、彼女の家庭課の成績が悪かったなどという話は聞いたことが無い。
でも早合点はいけない、と冬八が悩む中。
(会話は一端途切れたとはいえセンセは空腹のまま、唸れアタシの天才的な脳ミソ! 実は海外の有名大学へ飛び級の話があったけどめんどいから断ったぐらいには優秀なアタシなら、…………確実にセンセに料理を作って欲しいって言わせられるッッッ!!! 毎日お弁当作って、偶に休日には有名スイーツ店のスイーツ再現してるこのアタシなら――――この自慢のドエロボディ以外でもメロメロにできる!!! 筈!!! だったらいいなぁ!!)
恋する乙女は殺る気満々、玉袋は堕とした次は冬八の心も胃袋も掴むのだと。
密着してる故に、ビンビンに彼女の気迫を察知した彼としては。
(やはり絶好のチャンス、俺もついにオカン以外の女の子の手料理を!!! 逆ハーレムに堕ちてなおモテる倉地月夏嵯山の三人に負けてらんねぇぜ!)
だが。
(言い出したら男が、大人として情けない気がする……言い出してくれないもんか、いやでもそれで受け入れたらコイツが調子乗る……腕枕以上の餌を与えては……くっ、しかし俺も女の子の手料理食べて自慢したい!!!)
数年したら三十路も見えてきているのに高校生男子レベルの欲望を抱く冬八は、かつてない程に苦悩し。
その結果。
「――――ぇ」
見えてしまった瞬間、椿を息をのんだ。