• 現代ファンタジー
  • SF

『あなたの矢の速度』あとがき、解説、反省、小ネタ、その他もろもろ

※本文章は特に書く必要も公開する必要もないものだとは思うのですが、自分の整理のために書いたので、そういう文章だと思ってください



「団地に住んでいるエルフ」を思いついたのは『ロードサイド・ウォリアー』を書いているときでした。
現代日本の団地にエルフが住んでいるのか、それとも異世界に団地が転移してしまってそこに現地住民であるエルフが住み着いてしまうのか。どちらにせよ、『ロードサイド・ウォリアー』内に出すとしてもかなり後の方になりそうだなという感覚があり、なんとなくぼんやり考える程度でした。

またそれとは別に、現代日本の団地に異世界から多種多様な種族が移住してきて、文化の違いから揉めたりしつつも団地自治会に所属している主人公がなんか上手いこと折衝をする──そういう一種のお仕事ものというかお悩み解決ものというかご近所コメディというか、現代における団地住民の高齢化や外国人住民などの問題を絡めつつ、ファンタジックでポジティブな多文化共生ものを書きたいな、と思ったこともありました。
ただ、そういったものを書ききるには細やかな気遣いを要します。果たして自分に書けるのか、という気持ちがあり、これもたまにぼんやりと考える程度でした。


『あなたの矢の速度』という作品は、ぶっちゃけて言えばそういうたまに考えては「でもまあ無理やろな」と先延ばしにしていたアイディアの“現時点で書けそうな部分”を合体させたものであり、また「小清水亜美の声で喋るだらしないお姉さんキャラ好きだ……そういうお姉さんキャラをよ、脇役ではなく、絶対にメインにしてえよ……」という気持ちから生まれた作品でもあり、そして春頃からずっとこね回している作品が全然上手くいかないがゆえに書かれた、そういう諸々が合体したものです。


当初はかなり気軽に、ひとつのチャプターに1500字でそれを10個積み重ねて1.5万字のマジで気軽な読み物にするぞ! と思っていたのですが、気がついたら計5.2万字になっていました。こわいね(ほんとうに)。

ぼんやりとしたプロットだけを想定して感覚で書いてしまったからというのも勿論あるのですが、増えた理由としては高島屋資料館TOKYOで見た『まれびとと祝祭 ―祈りの神秘、芸術の力―』の影響が大きいです。
どうしても異種族の儀式を描きたくなり、そしてそこから他文化・多文化のお葬式を描きたくなってしまって、膨らみに膨らんでしまいました。見切り発車ってこわいね(ほんとうに)。

コクゴさんたちの儀式、お葬式関連の諸々、そしてコクゴさんに起きる“症状”や妖精の設定などに関しては、どうしても詰めきれなかった部分があり、歯がゆい気持ちがあります。勿論、それ以外にも、本当にあそこはああで良かったのだろうかと思うところはありますが……。

コクゴさんはエルフなので、もうちょっとエルフっぽいがゆえの人間とのギャップとかを面白おかしく描いたりしても良かったかもなとも思ったりするのですが、そういうのを殊更強調して描くのは差別的になってしまう気もしていて、なのでああいう感じに落ち着きました。これで良かったなとは思います。シュワイヤさんとオーリちゃんはもう少しなんとかしたかった気持ちはあります……。

現代ファンタジーやSFが好きなのでいうほどファンタジー作品にちゃんとふれていないことと、団地関連の書籍を読むのをここ5年近くサボっていたので、そこらへんももっとちゃんとしておけばなと思ったりもします。その割に過去の素振りがちゃんと効いている、というと自信過剰な気もしますが。

そういう反省点はあるのですが、思ってたより良い作品に仕上がり、想定より遠くにポンと着地したので、自分でも結構びっくりしています。書いて良かったなと思います。
『ロードサイド・ウォリアー』はどうしても自分の内面をドッカンドッカン出してしまいがちで半私小説や半エッセイみたいな部分があるので、こういうのもちゃんと書けるようになりたいなと思います。

……何の話だ? まあ、いいや。
以下、作中内で書き忘れたことや小ネタ解説やどうでもいい情報です。

・コクゴさんがワイングラスでもの冷やすときに「ゆねっさーん」というのは、コクゴさんが髭男爵の「ルネッサ~ンス」を曖昧におぼえているためなのと、カザミおばさんとむかし一緒に箱根小涌園ユネッサンに行ってたいそう感動したから、いろいろ混同している──というかなりどうでもいい設定があります。

・コクゴさんの名前の由来は作中で語られているとおりですが、メタ的には中盤と後半でちらっと登場するきりんちゃんの名字が花岳(カガク)だから、という理由があります。当初はきりんちゃんをもう少しがっつり登場させて、作中内でも「科学と国語」みたいな話をさせるつもりだったのですが、上手く登場させる話を思いつかなくて(プロット立てずに感覚で書くとこうなりがち)、こうなりました。

・上に書いたように、本作執筆前にきりんちゃんというキャラは既に存在していました。彼女は春先からいじっている作品のキャラクターであり、本作中で言及される〈特別危機〉や〈恋をすると角が生える病気〉も元はそっちの作品用の設定です。つまり、『あなたの矢の速度』は外伝というか、そういう世界=ユニバースに属している作品ということになります。

・コクゴさんに蕎麦を食べさせてるのは、何年も前に見かけた「エルフの主食は蕎麦のクレープや粥じゃない?→じゃあ手打ち蕎麦も食べるってことか?」というTwitter上のやり取りが元ネタです。あと単純に作者が『立喰師列伝』好きだから……。

・コクゴさんは「電気を止められている」のではなく「環境負荷を考えて意図的に止めている」という認識と思想らしい……けれど、実際のところは「なんか気がついたら止まってた」が正解。勿論、環境負荷のことも考えている。ちなみに湯浴みが大好きなので、水道とガスは止められないようにしているらしいです。

・コクゴさんは地元小学生から“ドウトクちゃん”や“レキシちゃん”と呼ばれていた時期もあったらしい。

・コストコやマイプロテインで買ったプロテインを元の世界で売っているシュワイヤさんですが、プラスチック容器はちゃんと回収している。

・シュワイヤさんがコクゴさんの手伝いに行っている間に『ポツンと一軒家』の取材が近隣に来ていたことを後から知り、ちょっと出てみたかったなという気持ちになったらしい。

・オーリちゃんが日本語で話す際に一人称に「儂」を選択し、あのような喋り方をしているのは日本の漫画やアニメの影響が大きく、意図的にみずからキャラ付けとしてやっている側面もある。実はエルフの言葉で話す際には「僕」に相当する一人称を使っている。そのため、日本語もそうしようか、でも急に一人称変えるのってそれはそれで変なのでは、という悩みがある。

・作中では「夏休みの宿題はこまめにやる」とツルハちゃんに言わせていますが、実際のところ本作の大半は8月末から9月初旬にかけて「やべえこれ8月中に書き終わるつもりが終わんねえぞ。……やべーぞ!」と書き上げたので、9月になっても夏休みの宿題をやってる状態でした。今後は計画的にやりたい。

コメント

コメントの投稿にはユーザー登録(無料)が必要です。もしくは、ログイン
投稿する