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なろうでこそっと 藍色の仮面聖女 第一話

第1話 癒すはずが癒やされた
よろしくお願いします。

教会の玄関前を箒で履いていると、中から、微かに私を呼ぶ声が聞こえた。

「おっ、おーいトゥーリ! どこにおる?」

 私が配属された教会のタダイ神父だ。
 この教会には聖女見習いの私とタダイ神父の2人しかいない。
 帝都ウルガータの誇る回廊城壁の外に広がる下町に埋もれるようにあるパラスサイト教会。規模が小さいから、2人でなんとか運営している。

 私の名は、トゥーリィと言います。見習いという立場で聖女をしてるの。
 聖女っていう清らかっていう感じするでしょ。でも私は仮面をしているのよね。額から瞼にかかるぐらいが爛れているの。それをを隠すために鈍色のフェイスマウスをしている。
 実は生まれたばかりの頃から痣があったようで、その為か聖教会の玄関に捨てられていたのを育ててもらった。
 この跡のためにいじめられて生死の狭間を彷徨ったこと数知れず、生きててめっけもの、守っていただいた主に感謝しきりです。
 大きくなって、ものの分別が出来るようになった頃に私が癒しの奇跡が起こせることがわかり、聖女になるべく修行を始めたのだけど自分の額の爛れを治すことは、出来ないでいたの。
 その為か、この場末の教会に見習い聖女として飛ばされてしまったというわけでね。教会へ支える者の制服であるハビットも見習いとしてアンバーの色違あに染められている。正式な聖女様は藍色の聖衣を羽織るの。 
 そんな私を神父様が呼んでいる。

「助けてくれんか。動けなくなってなあ」

 神父はお年を召しているので、色々と痛んで大変なご様子。私は癒しの奇跡が多少なりとも使える聖女でもあるので、主へ奇跡お願いして痛みを和らげてあげている。

「はーい神父様。で? どちらにいらっしゃいますかぁ?」
「おぉ、ここだ、ここ!」
「ここって言われても。声だけ聞こえて姿が見えないですよ」
「燭台の奥にある棚のところだ。早くしてくれ。痛タァ」

 玄関を掃除していた私は礼拝堂の中に入って行き、チャンセルの奥に腰に手を当ててうずくまっていた神父をみつけて声をかけた。

「どうか、されました? 神父様」
「いやあ、箱を棚に仕舞おうてしたら腰がくぎっとなってなあ」
「ああ、腰ですね。お年なんですから気をつけてもらわないと」
「面目ない」

私は両手を組み、主に乞い願う。
  「フォセレ・ヴェレ」

次に手で印を結び、奇跡を願う。
  「サナ・メ・ドミィニ<ランベェーゴ>」

そして言霊を送る。
  「ヒール<ヘルニア>」

 神父様の背中側から腰の辺りに手を向けて力ある言葉を放つ。私の体を光が包み、その微かな光が手から患部の背骨辺りを照らしていく。

「痛っつ」

毎度毎度のことだけど、この力を使うと額のあたりがひりついてしまう。痛みに耐えながら、しばらく続けていると、

「トゥーリイ、ありがとうな。痛みも取れてきたし違和感もなくなったよ」

 タダイ神父は、ヨッコラショと起き上がり腰を伸ばした。左右にも捻って痛みが出ないか、様子を見ている。

「助かったよ。動けなくなった時は心配で心配で」
「もう、無理しないでくださいよ。そういう時は私を呼んでください」
「そう、させてもらうよ。あの痛みはこりごりだ」
「良かったですね。では神父様」

そして、2人とも祭壇に向き、印を結んで

『グラディアス・ドゥミィニイ』

 主へ感謝の思いを届けていく。


「トゥーリイ、本日の奉仕もこの調子でお願いしますよ」 

神父様は、そう言ってチャンセルの奥に去っていく。奉仕っていうのは、祭壇で朝の初めの儀に始まり、この教会に助けを求めてきた方達で諸々の悩みなら、主からの言葉で導き、怪我というなら主のお力で治療を施していくというもの。私みたいな聖女が行っていくんだよ。まあ、聖女見習いという立場なんで大したことができるわけでなし、程々に皆さんの為を思って活動していますよ。

「はぁーい。わかりましたぁ」

 そして玄関に戻り掃除の続きを始めた。
 ふと、往来を見ていくと教会の前には多種の種族が歩いている。ヒト族、妖精族、ドワーフ族、獣人族、爬虫人族といっぱい。
 実は、この帝都自体は人族が建国したから、回廊城壁の内側は人族が圧倒的に多い。でも、国として繁栄すると富や生活を求めて多種のものが集まってくる。城壁の中に入れなければ外に住み始め、荒屋、集落から村、町、市街地と大きくなって種族の入り混じったひとつの都市へと変わって行った。偏見やプライドから貧富の差から差別もある。
 そこへ『生きるものへ遍く愛を』を教義の一つにする聖教会が回廊外の混沌とした街区へおいたのがパラスサイト教会となる。
 まあ、置いただけの場末のものであるのは確かなんですね。

「あっ! 仮面のお姉ちゃん」

 暫く掃き掃除を続けていると往来の中に獣人狼族の子どもたちが数人集まって歩いている。其の内のひとりが私の姿を見つけて話しかけてきた。

 こんなマスクをした怪しい顔立ちのせいで、最初は気味悪がられて近隣の方々には相手にされていなかったけど、往来を歩く皆様方に、ここに来た当初から笑顔と明るく大きな声ではっきりと粘り強く挨拶をし続けたおかげで、街の皆々様へ認められるようになりました。本当に。く継続は力ですねー

「おい、聖女様だよ。お姉さんじゃない」

 その子の隣にいた年上の子が勘違いを直そうと話しかけている。

「せいじょさま?」

どうも、私が聖女らしく見えないらしく、ポカンとしている。何時ぞや主の起こす奇跡を目の当たりにしているのになあ。なんか悔しいから、

「はい!おはようございます。シュリンちゃん」

と、私は貴方と前に会っていることを仄めかす。

「わたしのことわかるの?」

まだ、わからないらしい。でも、不思議がって、こっちを見てくる目がつぶらで可愛いのよね。その可愛さに免じて、私を思い出さなかったことは許してあげる。

「ええ、この前、助けてくれたじゃない。それに、いつも挨拶してくれるでしょ」

「えへへ」

どうやら、思い出してくれたようで、照れ笑いをしだす。そんな姿もいじらしいな。そんな話をしていると、我先に先にと、おれは、ぼくは、あたしはと周りの子も口々に言い出して賑やくも騒がしくなっていく。でも和気藹々の和やか感じになりました。

「今度は大丈夫。みんなの顔は覚えたからねぇ。次は挨拶してあげるよ。またねー」

 と、手を振りながら子どもたちを見送った。あのぐらいに歳は可愛いんだね。なんか癒されます。聖女として街に癒しをもたらすために来たのに、ささくれた心を癒されてしまったよ。ふふ。

 教会の外にいて周りとの交流を深めて1日が過ぎていく。
お日様も沈み夜の帷も降りて夕食の時間のなり、台所兼食堂で教会自家製の蝋燭を灯す。裏には蜂箱が置いてあって蜜蝋をとって作っているんだよ。
この蝋燭も貴重な夜の灯り売ることで教会の資金源になっています。

 聖印を指先で刻み、食前の祈りを捧げる。

「明日への糧をいただき感謝いたします」

 今夜の食卓には、家畜の臓物と豆と少しの葉野菜を紅色果物菜のたっぷりの果汁で煮込み味を調味料で味を整えたシチューと丸パンが出ました。木で出来たスプーンで掬って口に運んでいく。あと、チーズがあればなぁーというのは贅沢、贅沢。以前に食べたチーズの味を思い出しながら舌の上で合わせていく。そうしたら、グッと美味しくなったのね。嬉しくなって艶という間に平らげてしまった。最後に、教会裏で栽培しているハーブのお茶で口の中をさっぱりさせました。不思議と満足してしまった。

 獣人の子達と別れてから、怪我人、病人へ‘ヒール'の施術。辻での聖典のろう読、1日の終わりの儀の施行。一通りのお勤めも終わった。人心地がついて、被っているベールも下ろして、寛いでいると、

「聖女様、聖女様」

 と、玄関の向こうから、微かに聞こえてきた、あらためて聞くと、かなり慌てている様子。こんな満ち足りた気分の時を邪魔されて、僅かに怒りを覚えつつ食堂からネイヴを抜けて玄関へ行き、扉を開ける。

「聖女様、後生だ。こいつを助けて」

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