トミヒロは次の日に、ジークムントに案内されて、城の西側の壁のところに言った。
ジークムントによれば、そこは先日、魔王軍と人類が戦争をした際、魔王軍によって破壊された箇所であるとのこと。城の他の場所も魔王軍に破壊されたものの、すべて修復が完了しているとのことである。
この西壁だけは、魔王軍によって、徹底的に破壊されたため、最後まで修復されなかった。
トミヒロ達に与えられた仕事は、この西壁を3ヶ月以内に修復する、というものである。
トミヒロ達が城の西壁に行くと、壁があった場所は空き地になっており、辺り一面に草が生えていた。そこに、屈強な肉体を持つ男達が10人ほど集まって、図面を見ながら何事かを話していた。
男達の中でも、一際大柄な男が、ジークムントを見て、手を振ってきた。
「ジークムントの旦那、待ってやしたよ」
ジークムントは、男に向かって軽く会釈をした。
「お待たせしました。今日から、工事を始める予定ですか?
「そうさ。ダビデさま、この壁を3か月で元に戻せだなんて、無理を言ってくれたもんだぜ」
「無理な注文なことは、ダビデさまとて、分かっております。しかし、魔王軍の手が間近に迫っておりますゆえ、ダビデさまとて、心苦しい判断だったはずです」
「ま、このオレさま、◯きっての建築屋の◯さまにかかれば、こんな壁、1週間で建つってもんよ。
それで、そいつらが、例の農園の元奴隷どもか?」
「はい。先日、リベカさま率いる親衛隊の面々が解放した、ヤコブ農園の元収容者たちです」
そいつらを、うちで使えと?
まったく、人手が足りないのは事実だが、この国は、こんな貧弱な連中に、西壁の再建を任せなきゃいけないのか」
大工の同僚◯は、トミヒロたちが西壁の再建に関わることに納得がいかない様子だった」
トミヒロたちと一緒にいた、12歳くらいの少女が、大工の棟梁の前に進み出た。
彼女は、片膝を地面につけ、棟梁に向けて頭を下げた。
「私をここで働かせてください。私は、あなたの召使いになりますから」
少女の様子を見て、棟梁が絶句した。ジークムントも、少女を見る表情が強張っていた。
同僚は慌てて少女を立ち上がらせると、なだめるような優しい声で言った。
「お嬢ちゃん、気持ちはありがたく受け取っておくぜ。しかしな、まだ年端もいかないお前みたいな女の子が、大の男に向かって、『召使いになります』なんて、言うもんじゃない。オレが紳士だから良かったものの、ろくに知りもしないヤツにいきなり頭を下げたら、何をされるか分からねえ」
ジークムントが、棟梁に向かって言った。
「おそらく、彼女は生まれてからずっと、自分の権利をずっと奪われて生きていたのでしょう。生き抜く術を持たない彼女にとって、他者に支えることは、唯一残された生き抜く術だったのです」
「まったく、魔王のすることは、正気の沙汰じゃねえや」
棟梁は、少女を元いた場所に戻らせると、工事の概要について、トミヒロ達に話し始めた。
「今からな、あの城の建物の端、こちらの端を繋げる工事を始める。全長は30メートル、高さは5メートルだ。
といっても、いきなり石材を積み上げて、壁を造るわけじゃねえ。
まず、地面の雑草をすべて取り去って、深さ3メートルの穴を掘る。そこに、鉄でできた鉄骨を入れて、壁の芯を作る。鉄骨の間に、鉄筋を組む。そして、掘り返した土を、元に戻して、基礎工事は完了だ。
その後、鉄骨を囲むように、木の枠、型枠ってやつを固定する。型枠の中には、地中と同じように鉄筋を組む。そして、細かく砕いた石と、さらに細かい土砂の水を、その中に流し込む。そのまま3日養生すりゃあ、壁ができる、ってわけさ。
一度に養生する壁の高さは、1メートルちょっとだ。今回は、3回に分けて、型枠工事をする。
今言った工程を、この人数で、3か月でやるんだ。分かるな?忙しいぞ。
野郎ども、取りかかるぞ!」
棟梁が声をかけると、男達は、「ウォオオー」という、雄叫びに似た声をあげた。