僕、中学1年生の頃に家出をしたんです。
雨の中、夜11時。途方もなく歩きに歩き、濡れた野良犬のように日本料理屋の軒先で雨宿りして、覚えたてのタバコをふかしていたところ、運悪く、そこの大将が出てきました。
ゴツン。
「おいガキ、人んちの前でタバコなんか吸うんじゃねぇ」
ひどく固い拳骨だっとおもう。
でも、体の小さい僕は大人に敵うわけもなく下を向いていた。
雨の中、涙なのか。今でもわからないけれど。
ぼたぼたと鼻を伝い流れ落ちていく水滴を今でも覚えている。
「はぁ」
そういうと、大将は僕の首根っこを掴んで店の中に連れて行った。
ひどくカサカサのタオルを手渡され、髪を拭いた。
こんな時間に、ここにいた理由は聞かれなかったが、独立して家を出た息子の部屋を
あてがってくれて、震える体はようやっと体温を取り戻した。
次の日、追い出されると思ってたけど、大将は、
「飯食わせてやったんだ。働け」
だって。
皿洗いの日々が始まった。
そのうち、僕は大根のツマと剣をつくる様になり、魚をさばくようになり
終いには寿司まで握るようになった。
酒も大将が教えてくれた。
半年弱くらい居候したのかな。
ある日、親が迎えに来たんだ。
僕は、中途半端にグレていたけど、大将が性根を叩き直してくれた。
「大将、ありがとうございました」
「トウマ。お前で独立した弟子が三人目なんだ」
「料理人ってのはな、弟子三人を独立させたら、『大将』から『親方」
になるんだ。ありがとうな。俺を『親方』にしてくれて」
だってさ。
その時は、なにも感じなかったけど、今回料理のことをテーマに執筆してたら
ちょっと、涙が出てきちゃってさ。
今週あたり、墓参りに行くよ。親方! あの日飲ませてもらった日本酒もってさ。
やべぇ。近況ノート書いてたら、また涙が出てきてしまった。
ということで、『第15話 お料理教室とマダム』もお読みいただければ幸いです。
『行きずり義妹』
https://kakuyomu.jp/works/16818093077250452276