「エイプリルフール短編SS」
今回は『VRMMOで神を名乗る闇精霊』の短編SSとなっております。
この短編はサポーターさま以外も読むことが可能です。是非、暇つぶしにしてくだされば幸いです。
次行より本編です。
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私とアトリとは連れだって歩いております。
冒険帰りの早朝。澄み切った空気の透明さは、現代日本の都会では決して味わうことができません。異世界ファンタジーの香りです。
爽やかな朝には、コーヒーと焼きたてのパンがほしくなりますね。
数時間も《スゴ》で遊んでいたため、現実では日付が変わったようです。
ふとカレンダーをチェックしてみれば、今日は4月1日……エイプリルフールでした。
「アトリ、今日はエイプリルフールですよ」
「? なに、です……か? かみさま」
「今日だけは神の名の下、嘘を吐いても良いのですよ」
「神様の日! すごい、ですっ!」
足を止めたアトリは、興奮したように拳をギュッと握ります。表情こそあまり変化しませんが、その熱意をこの邪神ネロは認めましょう。
アトリが私に嘘を吐くことは、まあないのでしょう。おそらく。
ちょっとだけ、アトリがどのような嘘を吐くのかが気になりますね。
「私もアトリも好きに嘘を吐いて良いのですよ」
「神様はボクに嘘を吐かない……です! もし、嘘を吐いてもボクが本当にする、ですっ!」
「……あはは」
それはちょっと困りますね。
本当に神様にされては面倒極まりありません。冷静な判断として神様なんてブラックも良いところ。ごめんです。
世界のおもりなんて絶対にやりたくありませんね。
お隣さんの面倒だって見たくありませんのに。それ以上なんておかしくなります。
女神ザ・ワールドは神でありながら「みんな大好き!」なんて宣いますが、運営さんはちょっと考えが足りないと思いますね。本当に神が居るのだとしたら、こんな世界すべてを慈しんで守ることなんてしてくれないでしょう。
私が女神だったら、世界なんて真っ先に見捨てます。
神のような圧倒的な力があれば、ですけど。
やはり力=自由だと思います。神力のない私では、社会に迎合せざるを得ないわけで。
「そうです、アトリ。私に何か嘘を吐いてみてください」
「え、あ……あう」
「どうしましたか?」
「ボクが、神様に、うそ……う、わ、あう、でも、神様のお願い……あ」
アトリが目をぐるぐると回し、頭を抱えてしまいましたね。
しばらくフラフラと揺れていたアトリですが、ピタリと動きが停止しました。その瞳は罪悪の色に濡れ、くぅーんと鳴く子犬のようでさえあります。
宙を浮く私へ向け、上目遣いでアトリが囁くように言います。頬は羞恥などで朱色が差しております。
「あ、朝は夜に来る、です……」
「ほう」
アトリの嘘でした。
何やらよく解りませんけれども、これがアトリの精一杯の嘘のようです。といっても、朝は夜に来る、というのは間違っているとも言いがたいですよね。
アトリは安心したように胸を撫で下ろしています。
可愛いですね。
意外とアトリを弄ることはないのですけど、定期的に弄って遊ぶのも楽しそうです。邪神的には。
「良くやりました、アトリ。良い嘘でしたよ」
「! やった、です! ボク頑張ったです……!」
「では、次の嘘をお願いします」
「う、あああ」
絶望した顔をするアトリ。
私はぽんとアトリの頭の上に乗って苦笑しました。
「嘘です、アトリ。面白かったので、今日はいつもよりも長めにログインしましょう」
「わあ! 神様の日、すごいです!」
「エイプリルフールですよ」
その後、シヲに嘘をリクエストしてみたところ、増える指を巧みに利用したマジックを見せられました。アトリはドン引き。
シヲって何処で知恵をつけているのでしょうかね。