「し、しかしそれは――それは我々が! あの、はるかなる《真人》の少女を蘇らせるにおいて、必要不可欠のものではありませんか! それを使ってしまえば、今日まで追い求めてきた我々の悲願は!!」
「では見捨てますか、ジム・ドートレス。己が大願の成就と引き換えに、同期の友を、私の生徒を見捨てますか」
2/28現在最新話(85話)の、上記のやり取りがさりげに気に入っている私です(挨拶
こんな感じのやりとりに味と趣を感じるようです。私の場合は。
――ともあれ。
久方ぶりのキャラ語りです。
いつか創作論的なものをぶち上げてみたいなーという俗な願望がないでもない私なのですが、このキャラ語りが若干創作論めいているのではないかという気がぼんやりしていたりもします。
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【ジム・ドートレスと《軌道猟兵団》の冒険者達】
・コンセプトは「わるいマッドサイエンティスト」。
私の書く話にはちょいちょいこういうタイプの悪役が出てくる気がします。今回は変則的なやつですが。
発端としては二章の物語の発端と結末を担うキャストとして用意したキャラクター。
ただ、二章の流れを踏まえて三章以降における「当面の悪役」として流用することを念頭に、大枠を作りました。
・まず、当面の本格的な「敵」を作るにあたり、格の高い敵を用意しようという目論見がありました。
この点は分かりやすく、初戦の相手となったユーグよりランクの高い冒険者パーティということで仮置き。
作劇上、ひとまずシド達と直接対決させるつもりは端からなかったので、「特段、能力面ないし戦闘面でシドないしシド側のパーティ勝つ必要はない」という点を踏まえ、設定の縛りは緩いやつでした。
・敵対しない限り害はないし、全方位的に「悪」かといえば必ずしもそうでもない。
とはいえ、基本的なアラインメントが「混沌」寄りの存在というイメージで、「善・混沌」とか「中立・混沌」とかその辺りになる面子であろう、という塩梅で想定しています。
一応ながら悪役であることを分かりやすくするためと、後は動機の部分を分かりやすくするという意味で、名誉と栄達に強い志向性があるタイプのキャラということにしました。
獣人のような、いわゆる「亜人種族」に対して差別意識的なものを持たせたのも、「悪役」であることを分かりやすくするための措置です。
が、こちらは時代背景というか、「現実で言えばどれくらいの時代を想定しているか」を踏まえると、ジムの意識ってさほどおかしなアレではないよなぁとも思っています。
とどのつまり、「此処は現代日本じゃない。異世界なんだ」という話になってしまうやつです。
・なお、↑タイトルのまとめ方でもお察しいただけるかと思いますが、パーティメンバーは基本的にジムの添え物です。
この辺の状況、初登場時の《ヒョルの長靴》が基本的にユーグの添えものでモブだったのと同様のやつで、リーダーのキャラクターに沿って周りのメンバーを宛がっているというチーム構成です。人数とガワだけ決めておいて、後から必要に応じてキャラクター性を付与していく感じ。
自分は集団でキャラを出す場合こういう形でまとめることが多いです。そうでないことも割とありますが、そこは「グループ」として構成しているか、「主になる一人とその添え物」で構成しているかで差が出ます。
《軌道猟兵団》の場合は後者です。
・ジム、及び《軌道猟兵団》の冒険者達の名前に関して。
これはほぼ全員、ガンダムシリーズの量産機から取っています。気づかれた方いらっしゃいますでしょうか。
メインになる一人の名前が「ジム」だというところまでは直感で決めたのですが、そこからスライドして「せっかく『ジム』がいるんだし、こいつらの名前はモビルスーツから名前持ってきちゃうか」という発想になりました。
何でかと問われると、何ででしょうねぇ、となってしまうやつなんですが…
・各キャラはそれぞれ、
・ジム(「機動戦士ガンダム」シリーズより)、ドートレス(「機動新世紀ガンダムX」より)
・ウィンダム(「機動戦士ガンダムSEED Destiny」より)、ジン(「機動戦士ガンダムSEED」シリーズより)
・ロト(「機動戦士ガンダムUC」より)、ヘリオン(「機動戦士ガンダム00」より)
・ネロ(「ガンダム・センチネル」より)、ジェノアス(「機動戦士ガンダムAGE」より)
・ゼク(「ガンダム・センチネル」より。ゼク・アインなどゼクシリーズから)、ガフラン(「機動戦士ガンダムAGE」より)
・マヒロー(「∀ガンダム」より)、リアルド(「機動戦士ガンダム00」より)
ぱっと見でばれないようにすることには気を遣ったつもりでしたが、気づかれた方はいらっしゃるでしょうか。
ザクやグフ、ジェガンやダガー、あとバクゥやフラッグあたりの初見でピンときやすい特徴的な名前はなるべく外したつもりでしたが、ウィンダム・ジンあたりはだいぶんギリギリのとこかもしれません。
・ジム以外は初登場時点だと特に外見も年齢も職業も何も決めておらず、描写が必要になった段階でなんとなく決めてゆきました。
男5女1のパーティ構成だけは決め打ちしていました。これは単純に、ここまでに出てきたパーティから男女比をずらしただけです。
後から振り返ると、仮小屋のシーンでリアルド教師が一切口を挟んでいないの、他のシーンを踏まえて考えるとちょっと不自然な気もしますね。これも当時は彼女のキャラが固まってなかったせいなんですが。
・ジムは上述のとおり「パーティのリーダー」というポジションでしたが、エピソードを詰めつつ書いているうちに
「こいつが一番権力のあるパーティというのは、悪役というのを差し引いても構成として若干やばい気がするな…」
「というより、何かこのパーティの格が下がる気がするな…やばいのは許容するにしても格が下がるのは嫌だな…困るな…」
――という感覚が頭をもたげてきたため、急遽パーティ内権力のトップとして紅一点になるマヒロー・リアルド教師を設定。
ひとりだけほかと違う属性(※性別)を持っていて、違いがわかりやすかったので。
ジム、及び研究者っぽい魔術師枠ウィンダムの「教師」という設定を置いて、リアルド教師の立場をひとつ上に上げてジムの掣肘役に置くことで全体のバランスを取りました。
案の定というか、ジムは話が進むうちに端々がアホな感じになってきたので、リアルド教師を権力の頭に据えたのは正解だったかな――と。
ウィンダムは流れとして魔術師枠が欲しかったので。
ロトはこちらも流れとして、合いの手を取ってくれる愛想がいい感じのやつがいると展開がスムーズだったので。神官枠になったのは、戦士→魔術師ときたので、そこまでで出てきていなくてコミュニケーションに強そうな職業を役割として当てた塩梅。
残り二人は枠が余ったので、上述の面子とかぶらないそれっぽい設定を当てた感じです。ニコイチのセットで設定を当てたのに合わせて、どちらも名前の元ネタを「ガンダム・センチネル」「機動戦士ガンダムAGE」のモビルスーツで揃えました。
立ち位置としては、戦闘から探索まで何でもこなせる万能型の冒険者なんだと思います。この二人は。
・《軌道猟兵団》で銃使いという設定
あたかも最初から決め打ちしていたかのようですが、実際のところそんなことは全くなく。
パーティ内に銃手がいる設定ができたのは、《Leaf Stone》での再会の時くらいからでした。さりげに、「布で包んだ長物」を負っていると言及を入れるようにしたのがこのあたりからです。
キャラの名前をモビルスーツで固めたんだし、パーティ名は「機動戦士」的なやつにしたいなー、と思い立ち、「機動戦士」から字面をずらしたり何となくニュアンスの近そうなかっこいい感じの名称を持ってきたりしてパーティ名を《軌道猟兵団》に決定。
後になって、「パーティ名に『猟兵』って入れてるのに銃を持ってないのはどうなの?」と思い始め、後から銃持ちの設定を足しました。
彼らの祖国であるカルファディアは、書き手である私の中だともともと銃兵を組織している国だという設定にしてあった地域ないし国だったので、その意味で特色を出す機会でもあり、都合がよかったというのもあります。
そういう訳なので、本編の地の文でぶち上げた、切り札にしている銃が《軌道猟兵団》の名の所以だ、みたいなアレは、何と言うか……後付けの、ハッタリの類です。はい。
・ここからは――というか、ここからも、完全な余談ですが。
私的に、《軌道猟兵団》――というより、ジム・ドートレスを真実「悪」たらしめるであろう要素をひとつ挙げるとすれば、名誉に対する飽くなき執着でも、亜人に対する分かりやすい差別意識でも、さらに言えばクロに対するアレめなアレコレでもなく。
そうした、「悪役」っぽく分かりやすい、目に見えるフックの類などでは、断じてなく。
『正義』と掲げた目的のためであれば、そのための手段の一切が、そのための行為の一切が、己の中で正当化される
この、傲慢な確信にこそあるのではないかと思っています。
具体的には、《翡翠の鱗》の部族から《箱》と《鍵》を奪った強盗同然の行為を、「聖なる奪還」と臆面もなくぶち上げられるあたり。七つの大罪になぞらえるなら「傲慢」の罪でしょうか。
これに比べれば上述の分かりやすいフックなど、その一切が、所詮は相対的なポジションの問題にすぎないものであろうと思っています。
てか、私的には些事の類です。「こいつはキャラクターとして、こういうポジションなんだよなぁ」という、ある種の趣ですらあります。書き手の方ならご理解いただきやすいことではないかと思いますが、どうでしょうか。
でもって、ついでとばかりにここでぶちあげてしまいますと、作中でジム・ドートレスの敵手となったラズカイエンは――広い意味では、イクスリュードら水竜人の戦士達も――ジム・ドートレスのそれと同質の「悪」を抱えた存在であったと、書き手的にはそのように理解しているキャラクターです。
ゆえに、この両者の戦いにおいて、勝利者は「不在」なのです。
どちらも――各々の目的と正義、各々の物語を抱きつつも――在り方として、作劇上の「悪」だから。
そんな塩梅です。