• 異世界ファンタジー

極剣のスラッシュ100話突破記念SS 「あなたに任せてもよろしいのかしら?」


 ★★★まえがき★★★
 この話は作中の時間軸でいうと100話後の話になりますので、
 100話を読み終わった後に読まれることをおすすめいたします。
 m(_ _)m
 ★★★★★★





 それはフィオナが正式に弟子入りして、おおよそ二ヶ月が経った頃の話である。

 俺はいつものように、アッカーマン商会が経営する食料品店へ食材の買い出しに訪れていた。

 するとなぜか、そこにはフィオナの母親を名乗る女性がおり、向こうは俺の顔を知っていたのか、俺が店を訪れるやいなや、あれよあれよという間に店の奥にある応接室に連れ込まれてしまったのである。

 茶色の髪と瞳をした、フィオナに良く似た面差しの女性は、応接テーブルの対面に座ると「アリサ・アッカーマン」と名乗った。

「えーっと、俺、いえ、私はアーロン・ゲイルと申します」

「ふふっ、存じておりますわ。アーロンさん、そう緊張なされず」

 背筋に嫌な汗を流しながら何とか名乗り返すと、アリサ女史はおかしそうに笑った。

 正直、俺は緊張していた。

 なぜ、フィオナの母親がこんなところに? 自意識過剰でなければ、おそらく向こうは俺のことを待ち構えていた感じだ。

 つまり、俺に何か用がある、ということだろう。

 それが何に関する用事、あるいは話なのか、俺は推測できないほど鈍い男ではない。

 おそらく、いや、十中八九、フィオナが木剣職人になったことに関してだろう。

 木剣業界の未来を背負い、いまや巨匠と呼ばれることもある俺だが、この業界がまだまだマイナーな業界であることは、さすがに理解している。

 娘をそんな不安定な業界に引き込んだことに対して、アリサ女史は苦言を呈するつもりなのではないか?

 その予想を裏づけるように、彼女は言った。

「実は、勝手に失礼かと思いますが、アーロンさんのことは色々と調べさせてもらいましたの。特に、フィオナとの関係などについて」

「――――ッ!!」

 やはり。

 アリサ女史はフィオナを弟子にしたことを、快くは思っていないのだろう。そうでもなければ、わざわざ面と向かって俺のことを調べたなどと、口にするはずがない。

 全身にじっとりと冷や汗を浮かべながら、俺は次の言葉を待つ。

「親バカと思われるかもしれませんが、あの子が今の仕事(探索者)に就くと言った時、私は反対しましたの。何しろいつ何があるか分からない、危険な仕事でしょう?」

 やっぱりか。

 アリサ女史はフィオナが今の仕事(木剣職人)に就く時、だいぶ反対したらしい。いつ何があるか分からない、というのは、今現在、ネクロニアを中心に巻き起こりつつある木剣ブームが一過性のものと危惧し、職を失う可能性があると言いたいのだろう。

「確かに、仰る通りです」

 俺はアリサ女史の言葉に頷いた。

 だが、覚悟を決めてアリサ女史を真っ直ぐに見返す。ここで言い負けるわけにはいかないと思った。

「アリサさんの危惧も当然の事かと思います。しかし、フィオナは――いえ、フィオナさんは、並々ならぬ情熱を持って、今の仕事をしているはずです。どうかそのことは、認めてあげていただけませんか?」

「ふふっ、フィオナで良いですわよ、アーロンさん。それに、フィオナの覚悟が生半可なことじゃないのは、知っていますわ。今の仕事を続けることに、もう反対はしておりませんの。ずいぶんと頼りになる方が、傍にいるみたいですしね?」

「そう、ですか」

 意外にも、アリサ女史はフィオナが木剣職人の道を進むことを、今はもう認めてくれているようだ。

 頼りになる方というのは――自分で言うのもなんだが、たぶん俺のことだろう。これでも木剣職人としては他の追随を許さないほどの名声を得ているからな。

 しかし、木剣職人のことを認めているならば、なぜ俺を待ち受けていたのだろうか?

 その疑問に、アリサ女史は答える。

「実は今日、アーロンさんをここへお呼びしたのは、一つ、伺いたいことがあったからなんですの」

「……聞きたいこと、ですか? もちろん、答えられることなら、何でも答えますが……」

 いったい何を聞かれるのかと身構える俺に、アリサ女史は問うた。

「アーロンさん、フィオナとの関係について、どう考えておられまして?」

「どう、と仰いますと?」

「二人の将来のことですわ。母親が口を挟むのもどうかと思いましたが、あの子のことが心配で……。アーロンさん、娘のこと、あなたに任せてもよろしいのかしら?」

 こちらを射貫くかのような鋭い視線。

 嘘も誤魔化しも許さないという、強い意思を感じる。

 これは、真剣に答えなければならないとすぐに悟った。

 おそらく、アリサ女史はフィオナが木剣職人の道を進むことを認めつつも、一方で母親として心配しているのだろう。

 だから師である俺に問うたのだ。このまま木剣職人を続けていて、本当に娘の将来は大丈夫なのか、と。

 俺は娘を想う母の心に胸をつかれた。

 だからこそ背筋を正し、真剣に答える。

「アリサさんが心配なさるのも当然だと思います。しかし、私も娘さんのことは生半可な覚悟で引き受けたわけではありません」

 あの日、キルケーの屋敷で、フィオナが木剣職人になりたいと言った時(?)、俺は最後まで面倒をみるつもりで引き受けたのだ。途中で投げ出すつもりも、投げ出させるつもりもない。

「(師として)最後まで責任を持つつもりです」

「(人生の)最期まで……!?」

「はい。俺が責任をもって、(フィオナのことは一人前の木剣職人に)立派に育て上げてみせます」

「育てる……!? (まさか、もう子供が……!?)それは……そういうこと、なのですね?」

「はい。アリサさんが娘さんを心配する気持ちは痛いほどに分かります。ですがどうか、俺に任せてはいただけませんか……? フィオナさんに……いえ、フィオナに、後悔させるようなことはしないと、誓います」

 アリサ女史の瞳を、真正面からじっと見つめた。

 やがて俺の真剣な思いが通じたのか、アリサ女史はふっと微笑を浮かべて、

「そうですか……どうやら、私が心配する必要はなかったようですね」

 背筋を伸ばすと、俺に向かって深々と頭を下げてきた。

「アーロンさん、どうかフィオナのこと、よろしくお願いいたします」

「アリサさん……」

 フィオナの師であるとはいえ、娘のためにこんな若造に頭を下げてくれるなんて……何て言うか、恐縮するばかりだった。

 俺はアリサ女史よりもさらに深く、頭を下げて言葉を返す。

「はい。どうぞ安心して、お任せください」

 フィオナのことは、俺が責任を持って超一流の木剣職人にする!!

 その決意が再確認できた、良い出来事だった。

 何かうまく、話が纏まったような気もするしな!


7件のコメント

  • 100話突破記念SSありがとう御座います。
    ご多用の中での日々の更新、大変かと思われますが、楽しく拝見させて頂いております。
    更新の度に、コメントを記載したいと思っておりますが、お目汚しとご負担になるかと思い、♥だけにし控えておりました。
    心身ともに気をつけて、これからも楽しく執筆して下さいませ。
  • 相変わらずの勘違い、すれ違いぷりw
    さあこれで外堀が埋まったね😉
  • 悲報:アーロン人生の墓場に足を突っ込む

    まぁでもあれを食べてあげてるわけだしなぁ...
    続き楽しみにしております
  • ほんとにアーロンもお母さんも、愛くるしい、、、!
    たまらないwww好き!!!
  • @jun3776様、コメントありがとうございます(^-^)
    お心遣いに感謝いたしますm(_ _)m
    何かあればお気軽にコメント下さい(^-^)
    これからも頑張ります!!

    @pakuqi様、コメントありがとうございます(^-^)
    自分から外堀を埋めていく主人公(;^ω^)

    @utakatamugen様、コメントありがとうございます(^-^)
    まだギリギリ踏み止まってますよ!
    時間の問題でしょうが(;^ω^)

    @nyantyuuu様、コメントありがとうございます(^-^)
    両者勘違いをしたまま話が噛み合って進んでいく……。
    奇跡!!
  • もうこのスレ違いパターンがクセになってたまらん( ´∀` )b
    大好きです(*≧∇≦)ノ
  • アンジャッシュコントかな?(≧▽≦)(笑)
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