『2と繋いだ手を二度と離したくないと思い手に力が入ってしまう1 その手を優しく握り返す2』
場所はライラの執務室ではなく、アシュタルテの私室になった。
執務室であのお題をこなすのは恥ずかしく、かと言ってライラの部屋は雑然として向かない。
動くたびにガラクタに当たるようでは、アシュタルテに怪我させてしまうかもしれない。
二人でテーブルの上に出されたお茶を見つめていたら、はぁとアシュタルテがため息を吐いた。
「じゃあ、はい」
「はい?」
目の前に差し出されたのは手。
白くて柔らかそうな手のひらが見える。
とてもダンジョンに喜んで潜っている人には見えなかった。
ライラはその手とアシュタルテの顔を交互に見つめる。
不思議そうにアシュタルテは首を傾げた。
「手をつなぐのでしょう?」
「いや、そうですけど」
ライラは苦笑する。
お題は繋いだ手を二度と離したくないと思い手に力が入ってしまう人間とそれを受ける人間の二人。
ライラとアシュタルテ、どちらが前者かと言えばライラは自分な気がしていた。
「これ、お題的にあたしが1が良いと思うんだけど……」
「どうして?」
「いや、それは……似たような経験、ピエトロ殿下のときしたし」
自分で言うのも恥ずかしい。
ピエトロがアシュタルテに婚約を申し込んだ時のことが、ライラの頭に浮かぶ。
あのときは、本当にもう離れなければならないと思ったからだ。
「へぇ」
「ちょ、アシュタルテさま?!」
ボソボソと呟いたライラに、アシュタルテは口角を引き上げる。
何も答えずライラの隣に移動すると、ソファに割り込むように座り、無理やりライラの手を取った。
柔らかな感触が手から伝わり、火がついたように熱くなる。
「私、手を繋いたことってあんまり無いのよ」
「……そうなんですか? エスコートは?」
「それは肘だから。手は繋がないわよ」
どっくん、どっくんと心臓がうるさい。
気もそぞろに答える。
アシュタルテは言葉通り、興味津々といった様子でライラと繋いだ手を見ている。
時折力を入れたり、繋いだままの手を上げたり、指でなぞったりするなら、ライラはたまらない。
「離したくないと思ったのも、繋ぎたいと思ったのも、あなたが初めてよ?」
「っー、うぅ……アシュタルテさま、わかってやってますよね?」
アシュタルテが繋いだままの手に頬をつける。
こちらを覗き込む瞳には悪戯な笑みが乗っている。
ライラは手の甲にキスを受けるより余程緊張した。
顔が熱くなるのを隠すように、自由な方の手で頬を抑える。
「何のことかしら?」
「ズルいなぁ」
しらばくれるアシュタルテの手を優しく握り返す。
一頻り満足するまで、その状態で過ごすことになった。
最終的にライラが逆上せたのは言うまでもない。